さて、突然の質問です。
あなたはどの程度対人モラルを大切にしていますか?
挨拶があったら返すべきと感じますか?
道を譲られたらお礼を言うべきと感じますか?
人が喋っている時に割って入る事に抵抗を感じますか?
今回は、この対人モラルの重視度が強い事で生きづらさを抱える方に対し
「細かい事気にしすぎだなぁ・・変えなきゃ・・」
と、自分の感性を否定する必要が本当にあるのかを考えなおせる記事を想定しました。
対人モラル重視度チェックリスト エビデンスレベル3
まず、自分自身が対人モラルをどれぐらい気にしているのかの尺度ってわかりませんよね。
なので自分の傾向が分かるチェックリストをご用意しました。
【対人モラル重視度チェックリスト】
以下の項目に、0〜5点で自己採点してみてください。
- 0点:まったく当てはまらない
- 1点:ほぼ当てはまらない
- 2点:やや当てはまらない
- 3点:どちらとも言えない
- 4点:やや当てはまる
- 5点:非常に当てはまる
質問
- 他人への小さな配慮(挨拶、感謝、気遣い)がないと強くストレスを感じる。
- 自分自身も、常に相手に失礼がないよう言動に細心の注意を払っている。
- 誰かがルールやマナーを破ると、強い違和感や怒りを覚える。
- 会話中、相手の表情や声色、ちょっとした反応にとても敏感になる。
- 他人が他人に失礼な態度を取っている場面を目撃すると、自分がされたかのように心を痛める。
- 他人からの評価・印象を過剰に気にしてしまうことがある。
- 目立ったトラブルが起きていなくても、対人関係において「これでよかったのか」と反省してしまう。
- 「こうするのが当たり前だろう」という基準が自分の中にあり、それが守られていないと不快に思う。
- 人とのトラブルや誤解を極端に恐れて、積極的な発言や行動を控えることがある。
- 「他人も、自分と同じレベルの配慮をしてくれるべきだ」と無意識に期待してしまうことがある。
採点方法
- 各質問を0〜5点で自己評価します。
- 全体で最大50点になります。
- 合計点によって、以下のように区分します。
合計点 判定 0〜14点 対人モラル意識は比較的低め 15〜29点 ある程度気にするが、柔軟に対応できる 30〜39点 対人モラルをかなり重視する傾向がある 40〜50点 対人モラルへの感受性が非常に高い
さて、何点になったでしょうか。
私は37点でした。過去の私の感覚で回答したら40点になりました。
今回は対人モラルを重視してしまう事で生きづらさを覚える事を取り扱っています。
点数が低かった方が無関係というわけではありませんが、今回のメインは点数が高くなった方になることが予想されます。
問題のない方は読み進めてくださいね。
なお、このチェックリストはビッグファイブなどの心理尺度でも広く使われており、一定の信頼性を持つ方法です。
対人モラルの重視は悪い事? エビデンスレベル2
対人モラルをいくら重視したところで、例えば会社で働いて給料をもらうという観点や、そのために成果を出すという点においては接客や営業の場面でもない限りは、残念ですが役に立たない事が多いです。
その接客や営業においても、高い対人モラルを抱えれば、自分はできても相手の反応が気になってそれが態度に出たり「契約する気が無い相手にまで何をやってるんだ」とマイナスな結果になる事もあるでしょう。
かといって対人モラルを重視してしまう感受性をすぐに改善できるわけもなく、適応できるわけでもなく、やがては
「どこに行っても傷つきやすい環境しかないな・・・」
と、生きづらさを感じ取り、社会が億劫になる事もあるでしょう。
では本当に、対人モラルを重視してしまう事は自分を生きづらくしてしまうだけの悪い事なのでしょうか。
希少な才能
対人モラルを嫌でも重視してしまうほどに感受性が高い傾向を心理学ではセンシティブ・パーソンとして解釈します。
いわゆるHSPの事です。
人口の15~20%は該当するとされています。
社会的規範やモラルを無意識に重んじられるのは、非常に高度な共感能力を意味するとまで言われています。
さらに、この力は、リーダーシップ、チームビルディング、クリエイティブな仕事、医療福祉などの場面で極めて重要だともされています。
私の見解としても、対人モラルを重視できるという事は
・些細な気遣いを見逃さない
・些細な気遣いが出来る
・周りがよく見える事に繋がる
と考えています
そんな人がモラルの低い環境にいる場合ではマイナスな事ばかりが目立って辛い事でしょう。
しかし、モラルの高い環境においては本領発揮ができ、対人関係も良好なものにできる事は容易に想像がつきます。
よって、対人の質が高い側の人間だと解釈する事もできます。
さて、対人モラルの重視は本当にデメリットでしょうか。
自己決定理論から見ても答えが出ている
まず、自己決定理論という概念について簡単に紹介します。
幸福感を得られるとする三大項目を指します。
自律性・有能感・関係性
これらが満たされると大きな充実感を覚え、高いパフォーマンスの発揮にも繋がります。
エドワード・デシとリチャード・ライアンによる理論です。
例えば、対人モラルを重視する感受性の高い方が逆の環境に飛び込んでしまえば
「ここは自分の考え方とあわない」
と感じ、発言する気力もコミュニケーションを取る気も失せてくる事でしょう。
次第に、組織の流れに身を任せる状態になる事もあります。
これは、自律性が削られている状態にあたります。
しかもここに
「細かい事まで気にしすぎじゃない?そんなに気にしてちゃ仕事にならないよ。集中して」
と言われてしまえば有能感も得られません。
ここまででは感受性は関係ありませんが、対人モラルが高い環境とは反対の環境に身を置くと、薄い人間関係やピリピリした対人環境に身を置くことになります。
これは、関係性を阻害する要因にもなります。
感受性の高い方が以下にこういった場所に合わないのは一目瞭然ですよね。
では対人モラルを重視する人が、対人モラルの高い環境に身を置くことができるとどうでしょうか。
- こちらの意見も聞いてくれる
- 些細な気遣いに感謝がされる
- 状況報告など交流が生まれ、感謝や建設的な助言がある
- 暴言が飛ばない
この辺りは想像がつきますよね。
意見を聞かれるという事は、自分で考えて物事を発信できる自律性が満たされ、感謝されれば有能感を得られ、前向きなコミュニケーションによって関係性も充実されます。
そして、本人自身も対人の質が高い側の人間であれば、相手にもプラスな影響をもたらすことができ、結果的に高いパフォーマンスを出せる可能性が高くなります。
これは人生の幸福感を数多く感じられる事に繋がるのではないでしょうか。
対人モラルが高い事が、ここまでメリットが明確にも拘らず社会ではモラルが軽視されがちです。
これはなぜなのでしょうか。
社会ではモラルが軽視される エビデンスレベル4
社会と言われると、会社で働く社会人をイメージしますよね。
そんな社会人は何をやっているでしょうか。
当然、会社が利益を出すための歯車の役目を果たしています。
こういった経済活動においては結果が重視されやすく過程は軽視されがちです。
要するに、直接的に役に立たないと判断されれば見向きもされない事を意味し、短期的利益が重視される傾向があります。
さらに、時間と心の余裕がないと、人は「最低限ルールを守れればいい」と思いやすい事もわかっています。
実はやっている転職の繰り返しや副業・趣味は大正解 エビデンスレベル1
先ほどの繰り返しになりますが「合わない環境だから仕事を変える」というのは生存戦略においても有効なうえに、自己決定理論を満たす場所を探す行為でもあるため、結果的に幸福を求める行動として非常に理にかなっています。
「そんな簡単に仕事を辞められたら困るよ」
「やめ癖ついてたら何もできないよ?」
「自分勝手じゃないか?」
こんな声は根拠がありません。
しかし、辞める側も根拠がないとまずいです。
説明できないけど嫌だから辞める。は、次を生まない逃避です。これには気を付けたいですね。
ですが例えば
「会社の〇〇さんが嫌すぎて一緒にいると鬱になるかもしれないから改善されないなら辞める」
これは立派な生存戦略です。
心が壊れる事を危惧して行動に起こすことは正当な自己防衛です。
心を壊してくる奴らとばかり遭遇しては逃げるのなら逃げ癖でもなんでもなく、戦略的回避です。
「聞いてた仕事と違うし荷が重すぎる。覚悟していた仕事とは全然違う内容をやらされているから辞める」
これも、前向きに社会に取り組みたい意思と反している事に気付いているため、立派な退職です。
「会社から自分勝手と言われようが、内容を隠した会社が悪いだろ。辞めるわ」
「従業員が守られなさすぎじゃね?続けるのしんどいから辞めるわ」
これも正しいです。
相応の給料を払われていても、辞めるに値しかねない理由や、金さえ払ってれば文句無しな。というような方針を隠していては「え?そんなの聞いてないぞ?大事な事じゃないの?無理、辞めるわ」という反応は正常です。一般人同士ならなおさら当然ですよね?
さらには、見合った給料が出ていないとか、難癖をつけて給料をカットするような会社ではどちらが自分勝手かわかりません。
「きちんとお金をもらってるんだから仕事として割り切るべき」
これは真面目な人が洗脳された例とも言えます。
倫理を捻じ曲げられている事に向き合わず思考停止の状態でしょう。
当たり前ですが、服従関係よりも公平性を重視するべきです。
変に我慢をして体を壊したり心を壊しても会社は絶対に責任を取ってくれません。
傷病手当や休業手当、労災など、社会保険料を支払っているからある権利ぐらいしかありません。
そして、副業や趣味の世界で対人モラルの高い場所を得る事も、逃げ場づくりなんかではなく、生きる上でとても大切です。
そこで得られる幸福感があるからこそ現実が耐えられるというメリットだってあります。
仕事や生活のストレスを受けた際、ポジティブな社会的交流がある事でオキシトシン(愛着や安心を促すホルモン)が分泌され、ストレスホルモン(コルチゾール)を下げる働きがある。
Taylor et al., 2000「Tend and Befriend理論」
趣味活動・副業活動において自己決定感や所属感が得られると、自律神経のバランスが整い、長期的なストレス耐性が向上する。
Fredrickson, 2001「ポジティブ感情拡張理論」
副業・趣味の「コミュニティ帰属」がレジリエンスを高める
Masten, 2001「Resilience Theory」
良質な対人関係を副業や趣味で築くと、心理的回復力(レジリエンス)が上がることが確認されています。
特に自分を受け入れてくれる環境があると、仕事など厳しい環境に戻ったときも自己効力感を保ちやすくなる。
Deci & Ryan, 1985「自己決定理論(Self-Determination Theory)」
まとめ
対人の質が重視される環境に身を置けば、対人モラルを重視する傾向は大きなメリットになります。
場合によっては大きな成果を出すこともあるでしょう。
ですが実際は、対人の質が高い会社は少ないかもしれません。
・結果さえ出せばいい
・売上が出せればいい
・人が足りない
・余裕がない人が多い
などの要因が今の時代では慢性化しており、それが対人の質の低さに結びつくこともあるでしょう。
しかしそれはあなたに問題はなく、社会の問題です。
何でもかんでも「社会に合わせろ、世の中に合わせろ」は社会の身勝手な声です。
そのために大切な能力を押し潰す必要はありません。
質の高いモラルを持つことは周りの気分を良くできる力を持っており、直接的に仕事に関係がない場面が多いとしても、コミュニケーションの上では強力な武器です。
決して
「細かい事を気にしすぎててめんどくさい奴」
といった暴言に負けないでください。
今回はここまでになります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
参考文献
『嫌われる勇気』岸見一郎・古賀史健
『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』ケリー・マクゴニガル
『ソーシャル・インテリジェンス』ダニエル・ゴールマン
『感情的にならない本』和田秀樹
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