上編はこちら
中編はこちら
上編と中編では、褒め伸びに適した言葉や環境を解説し、かといって信じてはいけない褒め方や言葉があるという落とし穴についても解説しました。
既に記事を読んでくださった方、ありがとうございます。
ところで
「え・・うーん・・えー・・・。他者の力を借りないといけないのか・・・・」
こんな気持ちはありませんか?私はあります。
褒め伸びとは言え、わざわざ他人の手を煩わせるような、気を遣われるような、ある意味では干渉されるような状況を快く思えない人もいるでしょう。

私もそうです。
人は一人では生きていないというのは重々承知ですが、可能なら他者の手を煩わせたくない、関わられたくない、できる事なら自分一人で解決したい欲求がかなり強いです。
少し脱線になりますが、買い物に行けばセルフがあれば絶対にセルフレジ。
給油なら必ずセルフのガソリンスタンド。
それぐらい、人の手を借りる事に抵抗があるんです。
似た感情をお持ちの方。
褒め伸びといえど他者の影響ありきなのは抵抗がありませんか?
そこで、セルフで褒め伸びを活かす方法はないのでしょうか?
ありました。
それでは、自分だけで褒め伸びを活かす方法を解説していきます。
「成功体験のログ」を残す エビデンスレベル1
さて、エビデンスレベル1ですよ。
自分だけで完結するうえに効果の期待値がエビデンスレベル1なら、やってみる価値があるのではないでしょうか。
早速方法を紹介します。
小さな成功でも、ほんの些細な努力でもいいので、紙やスマホのメモ、日記、ホワイトボード。どこでもいいです。
日々の小さな成功を可視化してください。
「何を書けばいいの?」
私を例に挙げてみましょう。
- ブログを書くためにパソコンを立ち上げた
- 朝早めに起きた
- 起きてちゃんとコップ一杯の水分補給した
- 記事の内容を一行でもかけた
- 仕事に遅刻しなかった
- 求人を1件でも見た
- 人の悩みを聞いた
- 人を手伝った
- 雪かきをした
- 決まった時間に風呂に入った
- 保湿をちゃんとした
「え、そんなことでいいの?」
いいんです。
些細であろうと人に迷惑をかけない自分にプラスな事は全て書くつもりでOKです。
「は?(笑)求人を1件見た?仕事に遅刻しなかった?しょぼすぎ(笑)」
「そんなの当たり前だろ(笑)やらないほうがやばいじゃん(笑)」
凡事徹底という言葉があります。
これは、当たり前のことを継続して実施し、それを徹底する事をさす四字熟語です。
物事を成し遂げるために大切なことで、この凡事徹底という考え方は、スポーツでも仕事でも趣味でも広い範囲で応用が利く考え方です。
多くの企業、そして野球選手として大活躍したイチローさんも実践してきた考え方です。
当たり前でも徹底して継続する事は簡単ではありません。
- 毎日、仕事に就いてないなら求人を1件見る
- 毎日、遅刻をしない
- 毎日、パソコンを立ち上げる
- 毎日、人を助ける・話を聞く
こうなってくるとめちゃくちゃ難しいですよね?継続するとはこういう事です。
だからこそ、些細な事こそ可視化し「自分はこれをやったぞ」とパッと見てわかる状況を作ってください。
何も永遠に継続しろという話ではありません。
今日は遅刻したっていいです。今日は求人を見なかったという日があってもいいです。
ただし、プラスな行動は記録に残してくださいということです。
意外と思いつかないものですよ。
プラスな行動を毎日欠かさず一つでも行う事で「ここまでは自分ってちゃんとできるんだなぁ」と、自己効力感の向上に繋がり「意外といけるんじゃ?意外と難しくないな!」と、挑戦欲に繋がります。
そしておまけに、プラスな行動の積み重ねは何かしらの良い結果に繋がります。
凡事徹底が言われるのはこれが狙いなんですよ。
Three Good Things(スリー・グッド・シングス)
Seligman, M. E. P., et al. (2005).
ポジティブ心理学の第一人者が提唱したストレス解消法です。
これは、毎日を前向きに過ごしたり、ポジティブな考え方をする事に適しているとされている方法です。
毎晩3つの良かったことを書くことで、うつ症状やストレスが大きく減少し、自己肯定感・幸福感が向上したという報告があがっています。
この方法は、健康的な人にも適しているとされており、精神的に安定した日々を送るために有効な手段です。
Positive Psychology Progress: Empirical Validation of Interventions.
American Psychologist.
紙やメモ、日記を使うのも良いですが、アプリでは『10年日記』や『3GoodThings』というものが公開されていますよ。
目標を達成したらご褒美を用意する エビデンスレベル2
さて、ご褒美の設定も実は有効です。
「え?それは良くないって聞いたことがあるよ?」
もちろん、過剰に難しい目標を設定するのは燃え尽き症候群の観点から見てもマイナスです。
そして、やたらご褒美を設定したり、良すぎるご褒美を設定するのも自己決定理論の観点から見てマイナスです。
それぞれ簡単に解説します。
- 習慣が無い人が腹筋を100回したらゲームをやっていい
- 習慣があるとしても4時間勉強したらお菓子を食べてもいい
と、過剰にハードルの高い事をやると、そのしんどさに懲りてしまい「これを超えるご褒美じゃなきゃやらない」になりがちです。
「いくらご褒美があってもこれを続けるのは・またやるのはしんどい」と無意識に感じがちです。懲りてしまったらおしまいです。
後述しますが、そもそもご褒美を用意して高い目標を達成するのは目的を見失いがちです。
簡単に書くと、頻繁すぎるご褒美は報酬依存になります。
すなわち、報酬があるからやるになり、内発的動機での行動だったはずが報酬という外発的動機に代わってしまうんです。
そして、ご褒美慣れすると自分が納得するご褒美じゃなければ頑張る動機がないになってしまうんです。
まずありえませんが、勉強を頑張ったら家を買ってもらえるとしましょう。
これ、家を買ってもらうために頑張るになりませんか?
勉強は自分が成績を出すためにやる。もっといえば自分の能力アップのためにやるはずでしたよね?
よって、この時点で外発的動機なんです。
だからこそ、ご褒美の程度や頻度は自分が努力する事をメインにし、ご褒美はおまけに留めておくべきです。紅茶が飲めるとか、せんべいが食べれるとか。
「ほどよいご褒美を設定するとどうなるの?」
まず、結論を簡単にお伝えすると行動の「習慣化」と「初期のやる気の引き金」として有効です。
それが結果として内発的動機を高めてくれます。でたらめではなくこの効果は複数の研究で示されています。
頑張ったあなたには価値があるから些細なご褒美を
Deci, Vallerand, Pelletier, & Ryan (1991).
達成をしないとご褒美がない。ではなく
今日もまたあなた自身に価値をつけたからご褒美がある。
という方法は内発的動機を高めるとされています。
このように報酬が操作的でなく情報的であれば、内発的動機を損なうことなく動機づけを高めることができるとされています。
“Motivation and education: The self-determination perspective.”
Educational Psychologist.
習慣化をするための初動に有効
Lally, van Jaarsveld, Potts, & Wardle (2010).
新しい行動を始める際に最初から内発的動機に頼るのは難しいことが多く、特に「褒められて伸びるタイプ」の人は自己肯定感が低いことが多いため、ご褒美によって行動する意味を実感しやすくなります。
習慣化研究では「行動が習慣化するまでには平均66日必要」とされており、それまでに行動を継続させる支えとして報酬は有効であることが示唆されています。
“How are habits formed: Modelling habit formation in the real world.” European Journal of Social Psychology.

これは目からうろこでした。
道理でほとんどの事が続かないわけですね。
66日もかかるからこそ、それまでぐらいは継続が簡単にできるようなスモールステップから始めるのが有効だといわれるのも納得です。
逆に、いわゆる三日坊主になりがちなのは、ハードルの高い事ばかりを目標にしていたせいなのかもしれません。
他者から見れば楽勝でも本人からしたらハードルが高すぎる事ってありますから、それを自覚せずに目標に設定していたらすぐ挫折するのもわかります。
例えば私からしたら、あやとりを10分だけやる。というのはハードルがめちゃくちゃ高いです。
平均66日なので、それより早い場合も遅い場合もあります。
過去を振り返ってみても、今当たり前にできてる事が2か月ぐらい、当たり前にできるまでかかったものもいくつかありませんか?
「やる意味があるんだ!」と自己肯定感を高めるためにも、報酬の力を借りて継続させるのは有効だという事ですね。
自分で自分に話しかける(セルフトークとメタ認知) エビデンスレベル2
「独り言を言えってこと・・・?」
使い方がうまければ独り言は最高の癖です。
この独り言を使って、友人に言うような優しい言葉で自分を褒めたり励ましたりします。
「今日はマジで頑張ったよ自分!」
「失敗するかもしれないのにやったんだよな自分・・偉いわぁ」
「昨日よりは上手くいったじゃん」
「今日は時間通りにご飯食べたしお風呂も入ったし、おかげですっきりしたじゃん」
「予定通りに行動した自分のおかげで時間に余裕があるな」
このような自分への思いやりは実はめちゃくちゃ効果的です。
セルフ・コンパッション
Neff, K. D. (2003).
自己批判はストレスホルモンを増やし、パフォーマンスを下げることが判明している一方で、セルフ・コンパッション(自己への思いやり)は、レジリエンス・やる気・創造性を向上させます。
The development and validation of a scale to measure self-compassion. Self and Identity.
「うーん、いくら些細でも褒めろと言われても、世間で見たら普通な事なんだよなぁ・・」
全人類、その行動単体を見れば差はありませんが、生活習慣や過去などの背景は違いしかありません。
ブラック企業での激務を繰り返す中で休日に5分だけジョギングをする人。
と
言うほどブラック企業でもなく残業がほとんどない企業で働く人が休日に5分だけジョギングをする人。
とでは意味合いが全然違います。
ゲームが苦手な人が強いボスを倒すのと、ゲームが得意な人が強いボスを倒すのとでは意味合いが違います。
残業で夜も帰りが遅いうえに朝起きる事が苦手すぎる人が遅刻をしない。
のと
残業で帰宅が遅いけど朝起きる事が平気な人が遅刻をしない。
のとでは意味合いが違って当然です。
対人恐怖症を持つ人が「おはようございます・お疲れ様です」を言うのと、健康的な人が「おはようございます・お疲れ様です」を言えるのとでは意味合いが全然違います。
あなたも一つの行動に対し、その行動を億劫にする背景や過去・環境はありませんか?
「自分だって嫌だけどやってるんだよ」
他者からのこんな言葉を鵜呑みにして自分への評価を蔑ろにしたり、自分の気持ちを押し殺していませんか?
「いや・・でも周りから見たら普通の事でもないし褒められるようなことでも・・」
そろそろ他人軸で考え方を決めるのをやめましょう。
今の自分の状態や背景をふまえたうえで、その行動が評価できるかを考えるべきです。
そこで使えるのがメタ認知です。
メタ認知
Flavell, J. H. (1979).
自分の考え、感情、行動、過去など、自分の状態を客観的にみて理解する事をさします。
このメタ認知によって自己認識力が高まり、冷静に行動を評価する事が、論理的に自分を褒める事へ繋がります。
これは、教育心理学の複数研究により支持されています。
Metacognition and cognitive monitoring.
さて、この科学的根拠が出たところで先ほどの例を引っ張ってみましょう。
ブラック企業での激務を繰り返す中で休日に5分だけジョギングをする。
私だったら、激務で体も疲れ切っている中、休日にわざわざジョギングをするなんて考えもしません。なのにそれをやるなんて偉すぎます。
ゲームが苦手な人が強いボスを倒す。
苦手でも倒せるまで試行錯誤し、その結果勝ち取れたなら「よく頑張り切ったね!やったね!!」と感じます。
苦手だし倒せなかったら投げ出す人が多い中、粘り強さを褒めても良いのではないでしょうか。
残業で夜も帰りが遅いうえに朝起きる事が苦手すぎる人が遅刻をしない。
ほとんどの人が遅刻をする事があるでしょう。
それに「これだけ大変なんだから少しぐらい遅刻してもいいでしょ」と考える人もいるでしょう。
そんな中、遅刻をしない事がいかに褒められる行動かわかるでしょうか。
対人恐怖症を持つ人が「おはようございます・お疲れ様です」を言う。
これがいかに怖くて、不安で、大変で、億劫なのか痛いほどわかります。
「よく社会に適応しようとしてるね」と褒められるべきだと私は思います。
私と同じように感じた方も少なくないと思います。
このような思いやりの言葉を自分にかけてあげてほしいんです。
ただただ寄り添いをかけてるわけではありません。
メタ認知を挟むからこそ、論理的に褒め、慰めているんです。
落ち込む事なくない?それ、結果的には・長期的にはこういう方向に結果が出る事もあるからそこまで落ち込まなくていいし、むしろナイスだよ。
こういう独り言を自分に言ってあげればいいんです。
このメタ認知の精度をより上げるには、色々な情報や考え方、経験を手に入れる事が有効です。
知らなければ様々な行動のメリットを述べる事が出来ませんからね。
まとめ
セルフで褒め伸びを活かす方法があるという話でした。
自己対話だったり、報酬を用意したり、些細な結果を可視化する事が、どのように褒め伸びに繋がるのか、なぜ関係するのかわかりにくいとは思いますが
今日はこれだけプラスな事をした、頑張ったなぁ
続けてる自分偉すぎ、だからお菓子が食べれる!うまぁ~
これまでの自分にしては頑張ってる!明日も頑張ろう自分!
このような感情が必ず芽生えます。
これ、自分を褒めているだけでなく自己肯定感が上がっているのが伝わりますか?
こうして、自分をほめて伸ばし、自己肯定感を上げ、未来の結果も得るんです。
これがセルフで出来るんです。
セルフで出来る事をまとめます。
方法 | 内容 |
---|---|
成功体験ログ | 毎日「やったこと」を書く |
ご褒美設計 | 適切な報酬をつけて自分を褒める |
セルフ・コンパッション | 自分への優しい言葉を独り言でプレゼント |
メタ認知視点 | 他人の目で自分を見る練習 |
「褒められて伸びる」のは他人の評価でしか意味がないなんてことはありません。
自分自身による内なる評価でも、自分を高める事が可能です。
それでは今回はここまでになります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
参考文献
『ポジティブ心理学の挑戦』マーティン・セリグマン
『やり抜く力 GRIT』アンジェラ・ダックワース
『自分を操る超集中力』メンタリストDaiGo
『スタンフォードの自分を変える教室』ケリー・マクゴニガル
コメント