誰かに何かを頼まれたとき
「これ、間違ってない?」
と気付いた事、誰しも一度はあるでしょう。
ですがそれを言わず、言われたとおりにやる。
このような、言われたことを絶対に守るロボットになってしまう事、ありませんか?
わかってても
「言われたとおりにしないと後がめんどくさい」
「歯向かったらどうなることか」
「反発して不機嫌になられてもめんどくさい」
こう感じているのではないでしょうか。
次第には結局思った通りのミスやトラブルが起こり、責められ
「あ、ごめん・・何も考えてなかった」
「ごめんなさい、その通りです(心ではわかってたけどな・・)」
こうなっていませんか?
これで苦しむ人は少なくありません。
ですが実際は自分の能力が低いだとか、注意力が欠けているだとか、個人の責任にされがちですし、背景が見えづらいのが現実です。
今回はその背景を解説し、今まさに苦しんでいる皆さんが原因を探るための参考になるよう意識した記事になります。
もしかしたら、今回の内容をきっかけに良い環境選びをする一歩になるかもしれません。
実際に起こっている事 エビデンスレベル4
①米国Gallup調査では約30%の労働者が職場で意見を自由に言えないと回答。
①Gallup, State of the American Workplace (2017)
②ハーバード大学の教授の研究による調査でも、看護師・病院チームで、6割近くが「上司に間違いを指摘できない」と回答しています。
③日本での調査も「職場で上司に意見を言うことにためらいがある」と回答した人が36.5%と出ています。(調査の話なので実際はもっと多いでしょう。)
間違っていると思っても従わざるを得ず、失敗につながった事例
1⃣航空事故調査
機長の判断ミスに副操縦士が異議を唱えられず、事故原因の70%に「クルーリソースマネジメント不備(声を上げられなかった)」が関与している事がわかりました。
2⃣医療事故調査
臨床エラーの約30〜40%が権威に逆らえない文化によって防げなかったと報告。
②Edmondson, 1999, Administrative Science Quarterly.
③日本の労働調査 (労働政策研究・研修機構, 2019)
1⃣(Helmreich & Merritt, 2001)
2⃣ (Leape, 1994, NEJM)
恐ろしいデータです。
被害に遭った人や、失敗の影響を受けた人からすればたまったもんではありません。
当事者も無傷とはいかず、他人が指示した間違った内容を言う通りにして問題になった場合、考えない人・ヤバい奴として無能の烙印を押されます。
問題にまで発展しないような日常でも「馬鹿だ」「天然だ」といった評価をされてしまうことがあります。
自分の中では間違ってるとわかってたからこそ、悔しいし理不尽すぎますよね?
「いや、間違ってるとわかってたらその場で言えよ。それもせず、わかってたのにやるって時点でそれ自分で決めてんだよ。だから無能だろ?」
これを奇麗事と言います。
こんな正論っぽい事を言う人が実際に、裏社会バリバリ経験者で理不尽な性格で、今にも何をするかわからない人の指示が飛び交った場合どうでしょうか。
「ヒィ!は、はいわかりました!その通りにします!」
ってなるんじゃないかと私は思います。
「いやいや、ならねぇよ。間違ってる以上に失敗だってわかってるなら仕事ならなおさら言わないとやばいだろ?」
と、引かない人は本当の理不尽を知らないか、想像力や共感力が乏しすぎます。
実際に「相手が誰であろうとわかってても言えない」と感じている人は決して少なくありません。
日本人特有とも言い切れません。
こんな困った現象の背景にはいったい何があるのでしょうか。
権威への服従 エビデンスレベル1
「はぁ?俺が間違ってるとでも言うのか?」
「ほう?言うじゃないか。どこがどう間違ってると言うんだ?」
「自分が正しいとか思ってんの?マジうざいんですけど」
「逆らったら降格な」
こういった否定や反発、威圧を受けると人はストレスがかかります。
ましてやこの言葉をかけてくる相手が、先輩・上司・親・教師など自分が今従うべき相手・目上だった場合は最悪です。
無視をするわけにいかないため、従うか話し合うかしか選択肢がなくなります。
上手にやりとりするとしても、ストレスがかけられる状況には変わりません。
そして何より、上手に付き合う事ができない人が多いからこそ、多くの人が困り、理不尽な日常の一部として起こりまくっているんです。
服従実験
服従実験では、権威のある人物や状況に対して、人がどれぐらい自分の判断を放棄してしまうかを示しています。
また、権威的な人物や環境にいると、人は「自分の判断は間違っているかもしれない」という不安から、指示に従ってしまうことが多いともされています。
有名なミルグラムの実験を引用します・・と言いたいところですが、後に倫理的問題や実験の信頼性についての批判が多かった実験なため、再検証されたものも引用して説明します。
ミルグラムの実験
被験者(参加者)には教師の役割を与えられる。
学習者(生徒のようなもの)は以下のような手順を行う。
課題
・学習者は単語ペアを覚えるテストを受ける。
・教師(被験者)は、学習者が間違えるたびに電気ショックを与えるよう、実験者(白衣の権威者)から指示される。
・ショックは15段階に分かれていて、強さが徐々に上がる。
権威者の指示
実験者が「続けてください」と指示する。
学習者が痛がったり助けを求めたりしても、実験者は従うように強調する。
目的
どの程度まで被験者が命令に従うかを記録。
高いショックレベルまで従う人が多いかどうかを調べる。
補足
実際は電流は流れず、学習者があたかも電気を受けているかのように演じ、被験者に「本当に電流が流れている」と思わせたうえでどこまで従うのか実験。
流す電流に上限が無く、倫理の面で問題視された。
倫理的配慮から実験を150ボルトで中止し、被験者に即座に「ショックは与えていない」と伝える方法で再検証。
ジェリー・バーガーによる再現実験(2006年)
結果、中止の段階までで、被験者の約70%が中止を言われなければ150ボルトを越える指示に従う意思を示していた。
これはミルグラムの実験結果とほぼ一致しており、権威への服従傾向が現代でも変わらないことを示唆しています。
サンタクララ大学:ジェリー・M・バーガー
さて、これを身近に照らし合わせるとどうでしょうか。
・指示者に従う闇バイト
・上層部から命令された管理役(皆さんで言う近しい上司)から無理な業務の押し付け発生
・モンスターペアレンツからの過剰要求に応える
・過剰なカスハラに対しても謝ったり、叶えようとしてしまう
・店(上司や上層部)の不利になるから悪質な客を是正できない
・親やパートナーの理不尽に従う
など、挙げだしたらきりがないでしょう。
心理学の観点から実証されているため、皆さんが「良くない事なのにやってしまう。断れない」というのは個人の責任だけではありません。
ですが実際は、それによって生じたミスやトラブルは全て自己責任として判断されてしまいます。
こんな許せない話が現代では当たり前のように通っています。
「服従・・っていうか、自分の場合は何も考えてないんだよな」
「わかってるのにミスしてるというより、言われたことが正しいかどうか考えてないからミスしてるんだよ」
ご安心ください。
それも根本があります。
まとめ
言われたことが合っているかどうかは一旦置いておき、言われた事をそのままやってしまうのは本人の弱さや能力で片付く話ではありません。
服従実験からもわかるように、相手の影響力が大きいほど従ってしまう傾向が人間にはあり、時にはそれが失敗でありトラブルになる可能性があるとわかっていても続行してしまいます。
「言われた事しかやってない。考えてすらないから言われたことが正しいかもわからない。そんなの自分が悪くね?」
そうとは限りません。
権利の服従が重なって、自分で考える力が壊されれば学習性無力感が生じます。
次回はその話を掘り下げ、どんな人がなってしまうのか?という特徴までお伝えします。
今回はここまでになります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考文献
『服従の心理』スタンレー・ミルグラム
『オプティミストはなぜ成功するか』マーティン・E・P・セリグマン
『影響力の武器』ロバート・B・チャルディーニ
『恐れのない組織』エイミー・C・エドモンドソン
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