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「褒められると嬉しいしモチベーションが上がる!」
「けど、褒められると次油断して失敗したり、褒められて嬉しいのにプレッシャーが・・」
「もしかして褒め伸びじゃないのでは?」
こんな葛藤ありませんか?

私の場合、褒め伸びだと自覚もしているのに「褒められるとなぜか途端に失敗する」事がしばしばあって
「君、もしかして褒めないほうがいい?(笑)」
と言われる経験も少なくありません。
実はこれ、褒め伸びとは言いつつもどんな褒め方が適切なのかが科学的に裏付けされており、失敗を誘発する褒め方と、成功を誘発する褒め方がわかっているんです。
そして競争を避けやすいあなた。私もそうです。
これ、単なる「平和主義者」「負ける事が怖い」で説明がつくわけではないんです。
よって
「競争を避けるのは甘え。社会はそんな考えじゃ通用しない」
これは完全に知識不足な言葉であり、多岐にわたって正論ではない発言です。叱伸びには効くかもしれません。
『競争しない=努力しない』わけではないんです。
モチベーションの沸き方に対するメカニズムが違っているだけの話で、成長を実感できる環境にいれば、競争型の人以上に努力を継続しやすい人もおり、それこそが褒め伸びタイプの強みです。
このように、褒め伸びの正しい扱い方を知って環境を変える一歩としませんか?
いかにも正当っぽいけど間違った発言に振り回されないようになりませんか?
今回はそんな知識を長編としてお届けします。
褒め伸びタイプとは? エビデンスレベル3
まず、褒め伸びとは何なのか?
その概要と特徴をおさらいしてみましょう。
褒め伸び
カーネギー・メロン大学(2007年)
適切な褒め方をされるとモチベーションが上がり、能力が伸びやすいタイプのことを指します。
これは、心理学・教育学の研究で裏付けられている現象です。
スタンフォード大学 キャロル・ドゥエック博士「成長マインドセット」理論
行動心理学「オペラント条件付け」(B.F.スキナー)
褒め伸びの特徴
(ドゥエック博士)
「結果」よりも「過程」を褒められると、モチベーションが長く続く。
「できたね!」と結果だけを褒めると、成功体験への依存が強くなり、失敗を恐れるようになる。
「工夫したね」「ここがよかった」と努力や戦略に焦点を当てると、試行錯誤が増え、実力が伸びる。
達成感を得やすい→(小さな成功体験でモチベーションが高まる)
周囲との関係性を重視する→(協調性があり、人間関係が円滑になりやすい)
挑戦のハードルが低い→(適切なフィードバックがあれば積極的に行動できる)
逆に、怒られると「やる気がなくなる」
競争よりも「自分が成長できている実感」が大事
成果よりも「努力や工夫を見てもらうこと」でモチベーションが続く
(スタンフォード大学の実験)
結果が褒められて嬉しくないわけではありません。
ただし、結果だけを見られてばかりだとプレッシャーを抱えるようになったり「たまたまうまくいっただけ」と誤解して次の機会への意欲が低下したり不安になったり失敗しやすいです。
なので、出せた結果に行きつくまでの過程に目を向けてもらい要所を褒められ、モチベーションが爆上がりする傾向を利用し、次のための努力を自然と行うように促すのが褒め伸びの特徴であり活かし方です。
褒め伸びのあなた。もしくは褒め伸びが身近にいるあなた。
当てはまっているでしょうか?
次は、そんな褒め伸びに適した環境や扱い方を深掘りしていきましょう。
褒め伸びに適した環境 エビデンスレベル2
まず、自己決定理論に基づいて褒め伸びタイプは
- 過程を褒められる事でモチベーションが湧き上がる
- 怒られるとやる気をなくす
ことから、外発的動機付けの影響を受けやすい事が言えます。
そして、内発的動機付けに移行しやすい事もわかっています。
「いやいや、争いごとが嫌いな平和主義なだけでしょ。負ける事にビクビクしてるだけの臆病者をきれいに言っても無駄」
綺麗事でも臆病でもありません。
興味のない争いに勝ち負けをいきなり持ってこられても迷惑だと感じませんか?
そもそも勝ち負けや争いに興味を持っていない人からすれば、勝ち負けの話を持ってこられても鬱陶しいだけです。ビクビクしているというのは的外れです。
「え?勝ち負け?争い?勝負?ノルマ?めんどくさ・・」
これが争いごとに興味を持っていない人の本心です。
よって、自分の成長に目を向ける傾向のある褒め伸びタイプが、結果主義ともいえる競争環境に放り出されるとモチベーションが下がるのも納得ではないでしょうか。
自己決定理論
(Deci & Ryan, 1985, 2000)
自己決定理論とは、以下の三つの要素が満たされたときに幸福感を感じる心理の事を指します。
有能感:自分の能力を高められると感じること
自律性:自分で選択し、行動できること
関係性:周囲との良い関係を築けること
そして褒め伸びタイプは有能感を特に重視する傾向が強いため、過程を褒められることでモチベーションが向上するのは、SDTに基づく説明と合致します。
また、自己決定理論において「競争」は内発的動機付けを低下させる可能性があることが指摘されています。
(Deci et al., 1981)
よって、褒め伸びタイプは
- 自分の成長が実感できる
- 努力や工夫を認めてもらえる
- 昨日よりも成長できているか?
- 自分がどれだけ前に進めたかがわかる
これらが可視化できる環境にいると驚くほど能力が向上していきます。
だからこそ、自分の成長を見守ってくれるコミュニティに属する事が最適です。
「言うのは簡単だけど、例えばどんな環境?」
「そんな事わざわざ世話焼いて声掛けてくれる人なんていないよ」
意識していないだけで意外とたくさんあります。
参考例を紹介しますから、カラーバス効果を狙って「あれ!?ほんとに環境あるじゃん!」と気づくきっかけとしてください。
褒め伸びの扱い方 エビデンスレベル1
さて、では褒め伸びに適した扱い方を解説します。
「まてまて、褒め伸びに適した環境の例を教えてくれるんじゃなかったのか?」
これからお伝えする褒め伸びの扱い方ができている人物や環境こそが最適解になります。
具体的な環境例を紹介されるより、扱い方を満たしている例を紹介される方が環境を見つけやすいでしょう。
小さな成功に目を向けられている
小さな成功というのは、スモールステップの達成を意味します。
習慣化の話でも挙げていますが、何かを習慣にしたかったり、大きな事を成そうと考えるのならスモールステップのクリアが必須ともいえます。
ドミノのように小さな壁を倒し続けるとやがて大きな壁も倒せるイメージです。私はドミノステップと読んでいます。(そんな単語はありません)
小さな成功をしっかり褒められている事が褒め伸びタイプにとっては重要です。
契約が取れたわけではないけれど
- 成功させようと資料の準備をしっかりやった
- 言葉遣いが素敵で相手を喜ばせられた
- 自分の身なりは綺麗にできた
勝負に勝てたわけではないけれど
- 相手の分析は正しかった
- 相手に効く行動はできた
これから大きな事を成そうと思っているけれど
- 普段の生活習慣を気を付けている
- 1分でも毎日勉強している
- イメージトレーニングができている
このように、結果や大きな物事に意識をとらわれず、小さな成功や些細な心構えを認められ褒められることが大切です。
自己効力感理論
アルバート・バンデューラ(Albert Bandura)
タイニー・ハビット理論
マインドセット理論
これらに基づくと、小さな成功を積み重ねることが自己効力感を高め、やる気を持続させ、成長的マインドセットを強化することが示されています。
したがって、褒め伸びタイプには小さな成功を認め、褒めることが極めて重要です。
研究:自己効力感理論(Self-Efficacy Theory, 1977)
B.J.フォッグ(B.J. Fogg)
研究:タイニー・ハビット理論(Tiny Habits, 2019)
キャロル・ドゥエック
研究:マインドセット理論(Mindset Theory, 2006)
努力が見落とされず評価される
日頃から行っている良い習慣を認められ、褒められることも大切です。
- 「いつも準備を念入りにやっていて感心するぞ」
- 「メールを送る前に文章チェックをちゃんとしていて素晴らしい」
- 「いつも時間を守っていてすごい!」
- 「当たり前の事をちゃんとやれていて評価できるよ」
このように、決して大きな結果の話ではないですが、普段のスタイルや結果に繋がる経緯が褒められる事も褒め伸びタイプには大切です。
そして、褒め伸びタイプの場合、結果に行きつくまでの過程を見てくれる相手を前向きに解釈できる傾向があります。
ではその、過程を重視する人はどんな言葉を言ってくれるのでしょうか。
「だから成果が出たんだよ」「それはたまたま成果が出ただけだよ」
あなたがスポーツをするとしましょう。
勝てるかはわかりませんが、練習をするのとしないのとで相手の反応がこのように変わります。
練習をした(普段から小さな成功や努力をしていた)
- 「さすが!いつも頑張ってたもんな!だから成果が出たと思うぞ!」
- 「今回結果が出なかったのは運もある。いつも勝つにはどうするべきか?自分に合った努力の仕方は何か?を考えながら頑張ってたからいいんじゃないか?」
練習をしなかった(普段なにもしなかった)
- 「たまたま運が良かっただけじゃないか・・?」
- 「まぁ・・・うん・・・普段からもう少し何かやった方がいいと思うぞ」
結果主義の人はこの例とは違う言葉をかけるでしょう。
「結果が出ないんだったら同じことだよ」
「日頃の態度と成果が出るかは別物です」
「結果を出すことが大切なのにその過程を褒めるのは筋違い」
「結果が出れば何も言わないよ」
シビアに見えるかもしれませんが、成果を挙げているのなら寛容かもしれません。
さて、再び同じ理論が出てきます。
アルバート・バンデューラ(Albert Bandura)
自己効力感理論
タイニー・ハビット理論
マインドセット理論
これらの理論に基づくと、前向きな努力や過程に対し前向きなフィードバックがある事も非常に大切です。
これは、自己効力感の向上に深く寄与し、その結果成長意欲が向上し、行動の継続が促されることが示されています。
したがって、褒め伸びタイプには、結果だけでなく過程を見て評価する環境が極めて重要です。
研究:自己効力感理論(Self-Efficacy Theory, 1977)
B.J.フォッグ(B.J. Fogg)
研究:タイニー・ハビット理論(Tiny Habits, 2019)
キャロル・ドゥエック
研究:マインドセット理論(Mindset Theory, 2006)
結果が出るまでの道のりの最中にも、感謝や応援があると褒め伸びタイプの人はよりいっそうモチベーションを向上させ、結果に繋がる行動をとりやすいです。
「都合よく感謝や応援をくれるようなそんな人いないよ!」
果たしてそうでしょうか。
人は『頑張っている人を応援したくなる』心理が備わっています。これは社会的促進や共感的関与という心理用語で証明できます。(ただし余裕がある人間に限ります)
よってあなたが日頃、努力の姿を周りに見せれているのならば・・
- 応援してくれている人
- 密かに見守ってくれている人
がいても不思議ではありません。
これ、仕事に限らずプライベートでもオンラインでも起こります。
まとめ
褒め伸びタイプでは、努力の姿や成果を得るまでの道のり、成功までに起こる小さな成功に対しても適切に褒められることが重要であり、そういった環境を選ぶことが大切です。
逆に、プレッシャーがかかるような状況や、厳しさがかけられ自分のペースが守られない環境は不向きと言えるでしょう。
さて、ここまで褒め伸びに適した接し方を解説しましたが、このような誤解もあります。
「褒められる環境ならいいんだな!」
「あの人はとにかく褒めてくれてイエスマンだからあの人との関わりを大切にしよう!」
だけでなく、世間に散りばめられたあらゆる正論が、褒め伸びには間違っている事もあります。
次回の中編では、このような誤解がいずれ生んでしまう罠について解説した記事をお届けします。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
参考文献
『マインドセット:「やればできる!」の研究』キャロル・S・ドゥエック
『やる気の科学: モチベーションを高める技術』ケン・シェルドン
『オペラント条件づけと学習のメカニズム』B.F.スキナー
『影響力の武器』ロバート・B・チャルディーニ
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