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上編では褒め伸びタイプに適した扱い方や適した環境について解説しました。
「とにかく褒められることが大事なんだなぁ」
「自分も褒め伸びだから、なんでも褒めてもらえる環境が合うんだな」
「なんでも褒めてもらうってなんか子供っぽいような・・・」
これらは全て誤解です。
褒めてもらうにしても、誰に褒めてもらうか。何を褒めてもらうか。
これらの根本がずれると本来の目的がブレてしまいます。
ただ褒められればいいわけではありません。
褒めてくれるなら誰でもいいわけではありません。
かといって
「結果が出てないなら過程を褒めるわけにはいかない。
努力の過程を褒めてもいいけど結果が出てなければ意味がないから捨てるべき考えだ」
このようなそれっぽい正論を受け止めても、褒め伸びタイプには合わない事もあります。
よって、外からの声は慎重に受け取ってください。
そこで今回は、どんな褒め方や言葉を選んで受け取り、信じて良いのかを解説していきます。
無意味な承認欲求 エビデンスレベル1
さて、少し耳の痛い話かもしれませんが、冒頭で触れたとおり、誰でも・または不特定多数から褒めてもらえることを目的に置くのは、褒め伸びではなく褒められて嬉しいを求める行動になってしまいます。
褒めてもらう事を目的に置くと、本来は努力を褒められることで結果をつかみ取りやすくなるはずが、褒めてもらえるから努力する。と結果を求める行為が蔑ろになるイメージがつくでしょうか。
それがやがて、褒めてもらえるならあれもこれもと、本来目指していた結果から遠ざかるのも想像できるでしょうか。
それこそ、承認欲求を示しているだけの行動になってしまうのは理解できるでしょうか。
だからこそ
- とりあえず褒めてもらえる環境
- 思考停止でポジティブな言葉をかけている環境
- 一貫性のない称賛(結果に全く関係ない事さえも褒める事を指します。)
は時に逆効果になり、方向性もブレかねません。
結果に繋がる努力や習慣を褒められる環境が大切です。
- 「チャレンジしたから失敗があるんだよ!チャレンジしてない人には失敗すらないから、よくぞチャレンジした!」
- 「行動したからこそ得た結果だよ、次に繋げる機会を手に入れたんだからナイスだよ!」
この褒められ方なら、あくまでも結果から目を背ける予感はしませんよね?
しかし、なんでも褒められたり肯定されると筋違いな返答がきたりもします。
- 「いいのいいの、君は可愛い・かっこいいから何でもOK!挑戦してくれてありがとね!」
- 「若い子が失敗するのは良いんだよ!経験経験!」
- 「イケメンは失敗しても華になるね!」
これらの褒められ方、勘違いしそうではないですか?
容姿磨きを頑張れば良いのでしょうか。
若いからOKなのでしょうか。
この環境で「いや、結果を出すために頑張るぞ!」と思い続けられるでしょうか。
いずれ正しくない場面で手を抜きそうな予感がしませんか?
あくまでも得るべき結果の存在を忘れてない範囲で褒められる環境を選ぶことが最適です。
①研究では、報酬(=承認や褒め言葉を含む)が内発的動機を低下させることが示されている。
①エドワード・L・デシ & リチャード・M・ライアン(自己決定理論, 1985)
つまり「褒められるためだけに行動する」と、純粋な興味や成長意欲が削がれ、行動の質が下がる可能性がある。
②「賢いね」と結果だけを褒めるより「工夫して頑張ったね」と努力の過程を評価する方が、成長マインドセットを育むことが実証されている。
つまり、無意味に褒めるだけでは成長意欲を損ない「結果を伴う努力」を促進しにくくなる。
③また「課題に取り組む子どもを対象とした実験」で、結果を褒められたグループは難しい課題に挑戦する意欲が低下し、努力を褒められたグループは積極的に挑戦し続けました。
②キャロル・ドゥエック(成長マインドセット, 2006)
③(ドゥエック, 2006)
叱られる状況を取り除く エビデンスレベル2
怒られるとやる気がなくなる
これは、褒め伸びタイプにはあるあるです。
かといって叱られる状況を0にしてしまうのは危険です。これは私も当てはまります。抵抗心こそありますが注意をされる環境は大切だと実感しています。
これはすなわちフィードバック耐性が低い事を指し、怒られる事や否定を嫌だと思うのは仕方のない事ですが、建設的な指摘にも耳を塞いでしまっては一匹狼で自分が正しいと思い込む人間になりかねません。
叱られると落ち込むのは仕方がないですが「建設的な指摘」と「ただの否定」を区別できるようになりつつ、建設的な指摘を受け取るためにも、反対意見が来る環境を0にする事は避けた方が良いです。例えばこの提案に対してもムッとなったり落ち込む場合はフィードバック耐性が低いのかもしれません。ただし、自分事として考えているとも解釈できるため、学ぼうとする側の人間とも言えます。
フィードバック耐性を上げると、建設的な指摘を素直に受け取れて成長速度が著しく伸びるだけでなく、ただの否定に対して「ただの不満ね。根拠はないのか。ふーん」と流すことができるようにもなります。
ダニエル・カーネマン(プロスペクト理論, 1979)
損失回避バイアス
人は「得をする喜び」よりも「損をする痛み」の方を強く感じるため「叱られることを避ける」動機が強く働く。
かといって叱責が完全になくなると、リスクを取る意欲が減り、チャレンジ精神が失われる可能性がある。
回避目標(叱られないために動く)と接近目標(成長のために動く)
「叱られるのが嫌だからやる」という回避目標型の動機は、ストレスを生み、学習効果が低下しやすい。
ただし、適度なフィードバック(改善のための建設的な指摘)は成長を促進することが示されている。
研究データ
「職場でのフィードバックに関する研究」では、ポジティブなフィードバックのみを受けたグループよりも、建設的なフィードバックを受けたグループの方が、業務改善のスピードが早かった。
アンドルー・E・エリオット(動機づけ研究, 1999)
(Kluger & DeNisi, 1996)
建設的な指摘に耳を塞ぐと、自分の考えが唯一正しいと思い込んでしまうリスクがあります。
ジョージ・ローウェンスタイン(情報回避理論, 1999)
情報回避理論によると、人は自分にとって不都合な情報を無意識に避ける傾向があり、それが「確証バイアス」につながることが指摘されています。
また、ダーウィンの適応理論から見ても、社会的なフィードバックを取り入れない状態が続くと、環境への適応力を失い、結果的に成長を妨げる可能性があります。
また、人は無意識のうちに「自分に都合の良い情報」を受け入れ「都合の悪い情報」を遠ざける傾向がある。
これが極端になると、誤った意思決定をしてしまいます。
チャールズ・ダーウィン(適応と進化, 1859)
キャス・サステイン & リチャード・セイラー(ナッジ理論, 2008)
間違った人脈を置く エビデンスレベル2
褒めてはくれるけど成長が止まるような褒め方をする人々もいます。
「それ以上頑張らなくていい!十分だよ!」
「それより上を目指してどうするの?いつも頑張ってるのは知ってるし素晴らしい成果を挙げてるよ」
あなたが無理をして頑張っているのなら優しい言葉に聞こえますが、ほんとはもっとやりたいし上を目指している状態では成長を止める褒めになります。
得たい結果が浮かんでおり、それに向かって努力をしており、その姿を褒められているとしても、実際はその先を目指しているわけですから「現状でも十分」とでも言われているような褒め方は、成長にストップをかけかねません。
また、あなた自身も頑張りたくない、やる気がない状態で「現状でも十分」といった褒め方の環境にいると高い確率でそれより上には行けません。
それはやがて「自分って本気を出したのいつだっけ・・・」と、先の未来で自己否定を生む可能性があります。
断言しますが、本気で頑張れている事がない・頑張れたことがない・頑張れた記憶を思い出せない人生は面白くありません。
①環境と知能の関係
①ジェームズ・フリン(フリン効果, 1987)
人の認知能力や成長は、属する環境に強く影響される。
挑戦や学習の機会がない環境に長くいると、成長の停滞が起こる可能性がある。
②「環境の質」がパフォーマンスに与える影響
エリートアスリートや成功者の多くは「自分より優れた人がいる環境」で鍛えられている。
自分の成長を妨げる人脈に囲まれると、自己評価が甘くなり、成長意欲が低下しやすい。
③データ
自己評価の高い学生と低い学生を混ぜたグループでは、低い学生のパフォーマンスが向上した一方で、高い学生だけのグループではさらなる向上が見られた。
②マシュー・サイード(成功者の環境要因, 2010)
③(Zimmerman & Schunk, 2011)
自己決定理論
①エドワード・デシ & リチャード・ライアン(1985)
人間の幸福感や充実感は「自己決定(自分で決めたことに取り組む)」と「努力の達成感」によって強く影響される。
頑張れることがない場合「有能感」を感じられず、人生の満足度が低くなる傾向がある。
フロー理論
「頑張ること」に没頭し、適切な挑戦を乗り越えた時、人は最高の幸福状態(フロー状態)を経験する。
逆に、挑戦や努力の記憶がないと、人生に充実感を感じにくい。
情熱と人生の満足度の関係
何かに本気で取り組むことで「調和型情熱」が育ち、長期的な幸福感を得やすい。
逆に、情熱を持てるものが何もない場合、無気力や退屈を感じやすくなる。
②ミハイ・チクセントミハイ(1990)
③ロバート・ヴァラーンド(2010)
結果主義は落とし穴 エビデンスレベル1
冒頭でも触れた内容ですが、自分に厳しいつもりがない正論を取り入れると、それが逆効果な事もあります。
例えばその中にも
「努力の過程は認めるけど結果が出てないとねぇ・・」
一見、もっともな意見に聞こえますよね。私自身その通りだと思っていました。
しかしこれ、褒め伸びとか関係なく当たり前の話かと思いきや、褒め伸びには逆効果だったんです。
成果を褒めるのと努力を褒める事の違い
(Dweck, 1999)
スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授の研究ではこのようなデータを表しています。
「頭がいいね!(=結果を褒める)」と評価された子供は、次に難しい課題を出されるとチャレンジを避けやすくなった。
「頑張ったね!(=努力を褒める)」と評価された子供は、次の課題にも積極的に取り組んだ。
この現象について、このように述べられています。
結果を褒められると「次も成功しなければならない」というプレッシャーを感じ、失敗を恐れて挑戦を避ける傾向が強まる。
努力を褒められると「努力すれば成長できる」という成長マインドセットが育ち、挑戦を続けやすくなる。
特に褒め伸びタイプはポジティブなフィードバックをモチベーションの源泉にするため、結果主義に寄りすぎると「成功しないと褒めてもらえない→失敗を避ける→挑戦しなくなる」という悪循環に陥りやすい事が示唆されました。
「結果主義」のフィードバックはプレッシャーを生み、パフォーマンスを低下させる
研究「過剰な期待」がパフォーマンスを下げる(Mueller & Dweck, 1998)
この研究では「知能が高い」と評価された子供たちは、その後の課題でミスをするとモチベーションが下がり、成績も悪化する傾向があった。
一方「努力を評価された」子供たちは、失敗しても自信を失わず、改善のために粘り強く取り組んだ。
この現象について、このように述べられています。
「結果」だけを重視すると、一度の失敗で「自分はダメだ」と思い、継続する意欲が下がる。
「努力を認める環境」では、失敗が成長の一部と認識され、学習が続きやすい。
「結果主義」の環境はリスク回避行動を増やし、成長を妨げる
研究「フィードバックの種類と挑戦行動」(Deci & Ryan, 1985)
結果を重視するフィードバックを受けたグループは「確実に成功する選択肢」を選びやすかった。
努力やプロセスを評価されたグループは「新しい挑戦」に積極的だった。
この現象についてこのように述べられています
結果主義の環境では「失敗すると評価が下がる」と感じ、無難な選択をしやすくなる。
逆に、努力を認める環境では「チャレンジしても大丈夫」と思えるため、成長機会が増える。
要するに
- 褒め伸びタイプは、結果よりも「プロセス・努力・工夫」を評価される環境の方が、学習意欲や成長スピードが上がる。
- 結果主義に偏ると「成功しないと意味がない」と感じてしまい、挑戦や学習を避ける傾向が強まる。
つまり努力の過程を軸に置かないと成長が止まるのが、褒め伸びタイプの特徴なんですね。
このように、褒め伸びタイプの人にとっては、努力やプロセスを評価する環境が成長を促す鍵となるため、結果主義な思考を取り入れてみる事は落とし穴なんです。
「努力は報われる」→努力できなくなる
「失敗は成功のもと」→失敗が怖くなる
「自分を追い込め!」→ストレス過多で行動できなくなる
「目標を高く持て!」→行動できなくなる
「成功するまで諦めるな!」→無駄な努力にハマる
「え?そうなの!?なんで!?」
と感じた方や「他にもないの!?」と感じた方はこれらの具体例と理由をまとめた記事をご用意しますのでお待ちください。
まとめ
いかがでしたか?
人に喝を入れるために使われた数多くの正論や言葉も、当たり前ですが適する人と適さない人がいます。
しかし、その違いや、なぜか?という部分までは説明できない人が大半ではないでしょうか。
そのため、なんとなくそれが正しいんだと曖昧に納得させられていたのではないでしょうか。
また
「そんな甘い考えが最近は増えてきたよな」
と切り捨てようとする発言もまだまだ見受けられますが、今は令和です。令和ですよね?
気に食わない気持ちもわかりますが、数多くの実験やデータが集められ、研究をされ、根拠が出そろっています。
個人にあったやり方や考え方、言葉があるものだという風に知識はアップデートされるべきで、最適な方法を取って健康的に成長が選べる時代なのではないでしょうか。
かといって、正しい知識を得たうえで行動をしないと承認欲求の塊だの一匹狼だのと揶揄された表現に当てはまりかねません。
そうならないためにも、今回の記事を用いて正しい環境の知識を身につけ、手に入れてみる一歩を想像してみてください。
次回、締めくくりである下編では、自分だけでも褒め伸びを活かして能力を上げる方法はないのか?を解説していきます。
それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました。
参考文献
『やる気の科学』エドワード・L・デシ
『マインドセット「やればできる!」の研究』キャロル・S・ドゥエック
『モチベーション3.0』ダニエル・ピンク
『心理的安全性のつくりかた』石井遼介
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