「自分は褒め伸びよりかは叱伸びだと思う」
「自覚はないけど叱伸びらしい」
と、意識のある皆さん。
でもだからといって
「何度言わせれば気が済むんだ?この場面でミスするなっつってんだろ学習しねぇなぁ」
「君全然だよ、社会でもやっていける能力を感じない」
このような言葉で伸びるわけではありません。
にも拘らず
「きつい言われ方されたよな・・でも叱伸びの自分にはあれぐらいじゃないと」
「きっと叱伸びだから言われたんだ」
このように無理な納得をしていませんか?
叱られる際の言葉は、受け取る事が辛いほどの強い言葉である必要は全くありません。
傷つける叱責は必要ない エビデンスレベル2
まずデータでも示されていますが、叱伸びといえど叱責が平気なわけではない方も大勢いらっしゃいます。
叱責を何度も受けて心が折れそうにながらも成果を出して褒められたことで、全てが報われモチベーションが上がった例もたくさんあります。
「叱伸びだから厳しい方がいいんじゃないの?厳しい言い方だから効くんじゃないの?」
これは完全に誤解です。
実際には、叱伸びなのに叱られることが苦手な人もいます。
「え、どういうこと?」
これは、叱るという行為をはき違え、怒る・傷つける行為を区別できずごっちゃにしている人から受けた傷が影響でしょう。
本来叱るというのは、相手の悪い点や過ちを指摘して、助言し、時には厳しく注意をする事です。
その背景には、相手の成長を考え次の機会に活かせるよう、良い未来を手に入れてもらうためというものが隠れています。
この場合、正論が使われる事でしょう。
そしてさらに、タイミングが的確であったり、論理的だったり、感情的にならなかったり、いずれも品を感じる行為です。(『叱る』でググってみてください。多分ほぼ同じ内容が載ってます。)
声をかける側は厳しい叱りと主張しているかもしれませんが「叱る」ではなく「傷つける」に分類される言葉が使われれば、本人の成長よりも、萎縮・自己否定を誘発する傾向が強くなるのは当然です。
このような無自覚の加害者が一定数いる以上、叱伸びだけど叱られることが苦手という人が現れるのも不思議ではありません。
「人格攻撃」「侮辱」「怒鳴り声」といった暴言・罵倒は逆効果
Baumeister et al., 2001
労働心理学や教育心理学の研究では「人格を否定するような強い叱責」は防衛反応・反発・自信喪失・恐怖回避行動につながると一貫して示されています。
暴言・罵倒が入った時点で「建設的フィードバック」ではなく「攻撃的言語・心理的ダメージを与えるコミュニケーション」とみなされます。「やる気あんのか!」→態度の否定→人格否定
「やり直せクズ!」→個人的感情を込めた暴言
人類が共通して、暴言・罵倒はマイナスだという事ですね。
考えてもみれば『攻撃的な』という時点でプラスに働くはずがありませんよね。
「いやいや、おかしいぞ。それを言われても挫けずに「くそ!」と歯を食いしばって成果を出すもんだ。大物はみんなそうだぞ」
「傷つくぐらいの言葉じゃないと目が覚めないだろ?甘ったるい考えで成果なんか出せないね」
これらの主張、誠に残念ですがデータが出ています。
全叱伸びタイプを対象に、罵倒・暴言により一時的に火が付く人の割合は5%で、その中でも暴言レベルの言葉(人格攻撃、罵倒、怒鳴り)により、委縮せず成果を出す人間は極めて少数です。
ビッグファイブ理論
さらにそこから成果を挙げるとなると、その割合は0.1-0.5%になると推測されます。
この値は、ビッグファイブ理論と自己効力感の観点から算出できる数値です。
スパルタ的指導のもと、成果を上げられる人は一部のみ。
例えば軍事訓練やプロスポーツの世界でも、過度な叱責で離脱する率が非常に高いことが知られています。
米軍での研修論文などからも、高圧的指導はエリートの中でもさらにごく一部にしか適応しないと報告されています。
自己効力感(Bandura, 1977)
『The Talent Code』(Daniel Coyle)
全叱伸びタイプを対象にしたとしてもこの数値です。
実際の社会は叱伸びも褒め伸びもいます。
いかに「暴言・罵倒から学んで成果を出すべき」というのが無理強いであり、非生産的な行為かわかるでしょうか。
よって
「暴言や罵倒で火がつく人間こそ大物だ」
という考え方は、科学的にも社会的にも完全に誤りであり、その主張は時代錯誤かつ、パワハラスを助長する危険な思い込みです。

そもそも、今の時代で大物になりたいと思う人がどれだけいるでしょうか。
普通に暮らしていくのも大変な中、攻撃的な態度を受け続けてまで大きな成果を得たいと思うほど余裕がない人でいっぱいです。
そこに「暴言や罵倒で火がつく人間こそ大物だ」と勝手な主張で高圧的にくるのは迷惑以外の何物でもないですよね。
調査では、職場での攻撃的な言動や無礼な振る舞いを受けた従業員の45%が意欲を失い、38%が仕事の質を落としたと回答。
Gallup社(2017)
さらに、アメリカでの研究によると「感情的な攻撃による動機づけ」は、短期的な行動変容はあっても、長期的には自己効力感の低下・バーンアウト・離職意図の上昇を引き起こすとしています。
American Psychological Association(APA)
サバイバー・バイアス
生存者だけ見て成功法則を語る誤った知識や考え方のこと。
「怒鳴られても耐え続け成果を出した人」は確かに存在します。0ではありません。
「あの暴言があったから励みになった」「あの強すぎる言葉のおかげで常に目を覚ませてた」こんな声も事実存在しますが、前述したように稀です。
それ以外で潰れた人の数は膨大だという事実から目を背けてはいけません。「ついてこれない奴はついてこなくていい」と暴力的行為を擁護し許容される事があってはいけません。
もしそういう考えの人が一定数いるのなら、その仲間内だけで留めるべきで、考えが合ってるかもわからない外部に持ち出すものではありません。これは、上手くいった人だけを見て成功法則を語る典型的なサバイバー・バイアスにあたります。
本来「同じ暴言を受けて、どれだけの人が傷つき、離職し、自己否定を抱えて去っていったか」に焦点を当て、アップデートされていくべきです。
何より、叱伸びが本当に伸びるのは、適切なフィードバック、ライバルとの競争心など闘志を感じた瞬間などです。
叱伸びも最後は褒めてほしい エビデンスレベル2
褒め伸びの皆さん、これまで、叱伸びさんを煙たく思ったことはありませんか?
「自分とは違って厳しい言われ方も平気なタイプなんだ、自分とは違うな」
「叱伸びの人を傍に置くとこっちまで叱られそうだ。離れとこ」
「いつかおせっかいでこっちが叱られそうだ、仲良くしないでおこう」
確かに、自身が叱られることで伸びた過去を基に、おせっかいで叱りをいれてくる人もいるでしょう。
ですが、叱伸びだから全員そうとは限りません。
タイプをしっかり見極める優しい叱伸びの方もいます。
そして叱伸びの皆さん。
決して叱られるだけで良いわけではなく、ケアもちゃんとしてほしいという気持ちが正当である事、証明できそうです。
人は誰でも「承認欲求」を持っている
アブラハム・マズローの「欲求5段階説」(1943年)
マズローによると、人間は「生理的欲求」や「安全欲求」が満たされたあとに、「所属と愛の欲求」→「承認欲求」→「自己実現欲求」へと進むとしています。
たとえ叱責をモチベーションに変換する「叱伸びタイプ」であっても
「ちゃんと見ていてくれていたんだ」
「認めてくれたんだ」
といった達成後の承認がなければ、自己効力感や内的動機づけが満たされにくく、やがて燃え尽きや虚無感に繋がるリスクがあります。
その内発的動機を保つためには、自己決定理論で言われる「自律性」「有能感」「関係性(つながり)」の3要素が必要とされています。
Deci & Ryan(1985)「自己決定理論(Self-Determination Theory)」
行動分析学における強化理論
(Seligmanの学習性無力感理論など)
叱伸びは「負の強化」(嫌な刺激を取り除くことで行動を強化)に近い構造を持ちますが、最終的には報酬(正の強化)によって行動が定着・強化されるのが理想的です。難しいのでわからなくて大丈夫です。
叱責→やる気が出る→結果を出す→それに対して報酬や承認がある
というサイクルが形成されることで、モチベーションは内在化していきます。
叱責だけが続くと、その刺激は「罰」として作用し始め、次第に行動は抑制され、精神的な疲弊に繋がる可能性が高くなります。

厳しい指摘を受けて成長したい反面「本当は褒められたい、認められたい、見ていてほしい」という感情を持っています。
その点では褒め伸びも叱伸びも一緒です。
その考え方を自分だけに留めて置き、他者は他者。と自分の考え方を押し付けないようにできる方もたくさんいます。
「本当は褒めてほしい」
この感情がある事を認めてあげてください。
まとめ
いかがでしたか?
厳しい罵倒が本人のため・成長のためという考え方はもう間違いです。
今回の記事を基に、皆さん自身の環境を振り返り
「あ・・・・当てはまってる人がちかくにいるわ」
「ちゃんと叱るをしてくれる人ばっかりだ」
「叱伸びでも褒められたいって思ってもいいんだ・・」
と、自身の環境や感情に気付く一歩となれば幸いです。
令和4年ではパワハラの報告件数は上昇傾向にあります。
ただこれは、実際の被害件数というよりは実態が見えやすくなったことによるものだとも推測されています。
叱るという名目での攻撃的な言動はもう必要ありません。
叱伸びだからと言って傷つける行為まで受け取る必要はありませんよ
今回はここまでになります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
参考文献
『叱る技術』戸田久実
『やる気を引き出す叱り方・ほめ方』榎本博明
『嫌われる勇気』岸見一郎・古賀史健
『メンタルが強い人がやめた13の習慣』エイミー・モーリン
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