後編はこちら
今回は、私がこれまでに何度も経験してきた「人への印象を何度も見直そうとするしんどさ」を科学的に見ていく記事になります。
「え?どういう事?」
こんな現象です
「うわ・・この人感じ悪いなぁ・・・なんでこんな態度が取れるんだ?」
と不快感を初対面で抱いたのに
「あ、ここでこういうことできる人なんだ。こういう時これが言える人なんだ。良い人じゃん」
と思い直して、少しコミュニケーションを取ってみると・・・
「???・・・え?なんでそんな言い方する?え?そういうことする?え???むかつく・・」
と、振り回された経験はありませんか?
私はめちゃめちゃあります。

私の場合は、社会復帰をするためにパートをはじめたときや、社会復帰を果たした先の職場だったり、とにかくお仕事関係でこういった思いをする事が多かったです。
仕事関係に限らず、友人・知人関係、SNS、アプリゲームなど、あらゆる場所で起こりうる現象ですよね。
さてこのように、最初に嫌だなと思った人から、後に少し良い面が見え、また嫌な部分に気付くという、感情の揺れは誰でも経験したことがあるでしょう。
これはただの気の迷いではなく、実際に人の心と脳が引き起こす自然な現象です。
・なぜこんなめんどくさい感情が起こるか?
・可能なら、こんな疲れるループはなるべく避けたいと思いませんか?
そんな方法はあり・・・ます!
きちんと順番に科学的に解説します。
そして、ループをなるべく避ける方法は後編でお届けします。
「この人嫌だ」と感じるのはなぜか? エビデンスレベル2
初頭効果
まずは、相手を即座に
「この人なんか嫌だな・・」
と感じる心理から解説します。
直感という言葉はご存知ですよね。それに加え、初頭効果という心理が働いていることがわかりました。
ここで「直感ってどれだけ信用していいのか?」をお伝えします。
心理学的には、直感は経験に基づいており、特に相手に対する最初の印象が後々正しかったと感じることは多いです。
経験や観察が豊富なほど、直感の精度が高まると言われています。
次に、直感と初頭効果を組み合わせた解説をします。
人は相手に対して最初に抱いた印象を、直感的に重要視します。
これを初頭効果と言い、最初に嫌な印象を持った場合、その感覚は強く心に残ります。
直感は、だいたい過去の経験や知識に基づいているので、無意識に「この人は自分とは合わないかもしれない」と感じるのです。
最初に抱いた嫌な印象が強く残るため、その後に良い面が見えても、最終的にまた嫌な部分が目立つ可能性があることから
「なんかこの人嫌だなぁ・・・」と思ったら「やっぱり自分の勘は合ってたか」という現象は、心理学的に一定の根拠があるんです。
ご経験ありませんか?
初頭効果
ソロモン・アッシュ 1946.
最初に提示された情報が後の認知や判断に強く影響を与える現象のこと。
実験概要
アッシュは被験者に架空の人物の性格特性を記述したリストを提示し、その人物についての印象を評価させる実験を行いました。
例えば、以下のような2種類のリストを提示しました。
グループA
知的 (intelligent)
勤勉 (industrious)
衝動的 (impulsive)
批判的 (critical)
頑固 (stubborn)
嫉妬深い (envious)
グループB
嫉妬深い (envious)
頑固 (stubborn)
批判的 (critical)
衝動的 (impulsive)
勤勉 (industrious)
知的 (intelligent)
この2つのグループのリストは見てわかる通り同じ単語の並び順を逆にしただけ。
なのに結果は大きく異なりました。
実験結果
グループA(ポジティブな単語から始まるリストを見せられるグループ)
肯定的な評価が多く「聡明で能力のある人物」と見なされる傾向が強かった。
グループB(ネガティブな単語から始まるリストを見せられるグループ)
→ 否定的な評価が多く「批判的で嫌な人物」と見なされる傾向が強かった。
結論
最初に得た情報が、その後の判断や印象を強く左右する。と示されました

私の自己紹介の記事でも、ネガティブに解釈しがちな紹介を先にしているので、似たような現象が起こる方もいるかもしれません。
この実験だけを見れば、グループBの結論が早とちりである事は明白です。
しかし実際の生活では、この初頭効果に加え、今までの人生で得た経験からくる直感が関与しているため、抱いた初頭効果が必ずしも誤解とは限りません。
これが、相手に対する情報を即座に脳内で決定し、その印象が脳内に定着しやすく、しかもそれが的中することがある。という話の正体です。
もちろんですが、初頭効果の影響を受けたまま固定観念を持ち続けると、後の正しい判断を見落とす事に繋がる事もあります。
そもそもなぜ相手を「嫌」と思うのか
嫌な人に対して、このように思ったことはありませんか?私はあります。
「この人と自分はタイプが違う」
私の場合は、タイプというより属性という言葉を使っています。
しかし、こうして割り切ろうとした矢先、誰かから「視野が狭い」だとか「極端すぎる、あの人にもいい部分はある」と言われたり、それらを踏まえて「自分が考えすぎかもしれない・・・」と悩まされる経験はありませんか?
ここであなたを救うのが心理学で、類似性の法則と内集団バイアスというものがわかっています。
類似性の法則
人間関係では「似たもの同士は仲良くなる」という法則があります。
価値観や趣味、ライフスタイルが似ている人とは自然に仲良くなりやすい一方、違いが大きいと不信感や不快感を抱くことが多くなります。
あなたが最初に抱く「この人と自分はタイプが違う」という違和感は正しく、まさに属性の違いからきていることがわかります。
内集団バイアス
ヘンリー・タジフェル
内集団バイアスとは「自分が属する集団(内集団)を、外部の集団(外集団)よりも好意的に評価する心理的傾向」のこと。
実験内容
参加者を、ほぼ無意味な基準(例えば、絵画の好みやコイントスの結果)でグループに分ける。
その後「自分のグループ」と「他のグループ」のどちらに報酬を与えるかを選ばせる。
結果
たとえランダムなグループ分けでも、自分が属するグループに対して好意的な評価をする傾向が見られました。
報酬が関わってくると、自分のグループが得をするように報酬を分配し、外集団に対して冷淡な態度を取る傾向が強まることが確認されました。
「最小条件集団実験(Minimal Group Paradigm)」
このような理論があるからこそ
人は自分と価値観や性格、趣味が似ている相手と親しくなりやすく、長続きしやすいという主張は正しいです。
しかし逆の場合だと、違和感や不快感を抱きやすくなるのも自然だという証明ができるんです。
よって「この人嫌だな」という感覚は、属性の違いによるものである可能性が十分にあり、属性の違いからくる相手への最初の違和感は正しいという説は心理学的に一部支持される考え方です。
だからこそ「あなたが考えすぎ」「視野が狭い」などという意見は間違いで、あなたが卑屈になる必要はありません。
さらに、あなたとそれ以外では、それぞれ微妙に属性が違う事も普通です。
よって、相手や周りが何と言おうとあなたにとってはあなたの違和感が一番正しい事もあります。
その感覚が、他人にとっては正しくない場合があるというだけです。どっちの感覚を信じるかはあなたが決めていいんです。
「嫌」なはずなのに良い面が見えると納得しようとする理由 エビデンスレベル1
あなたの努力がとか、器が、なんていうある種の根性論は一切ありません。
結局は相手を嫌な人と思ってしまう現象に対し、私も当初は、自分がへたれている、あまえている、忍耐力がない、適応力がない、と思っていましたが、またしても心理学は証明してくれています。
認知的不協和
もしその相手の良い面が見れた時「この人は嫌な人」という最初の印象と「実は良い面がある」という矛盾した感情でモヤモヤしますよね。
このモヤモヤこそが不快感の正体です。、
そしてこの不快感を埋めるために心が無理やり
「相手にも良い部分があった。自分が知らなかっただけだ」
「自分の考え方が狭かったんだ」
「あの人に指摘された通り、人を悪く見る癖があるから自分の考え方が問題だ」
このような思考を巡らせることによって、モヤモヤを解決させようとします。
これが認知的不協和です。
あなたに問題があるのではなく、認知的不協和という心理現象がそうさせているんです。
しかし結局は最初の直感に戻ってしまうことが多く、ちょっと嫌な面を見たら嫌な人という見え方に戻るわけですね。このループ、めっちゃ疲れる事をしているように感じませんか?
認知的不協和
レオン・フェスティンガー 1959.
認知的不協和とは「自分の考えや行動に矛盾が生じたとき、その不快感を解消しようと心理的に調整する現象」のこと。
例
「喫煙は体に悪い」と知っているのにタバコを吸い続ける。
このような矛盾する認知が同時に存在すると、人は強いストレスを感じます。
このストレスを消し去るために、こう結論をつけて「合理化」します。
「タバコを吸っても長生きする人もいる」
このように思考を変える事で不快感を調整することを指します。
単純に本質をまだ見せられていない
最初はもちろん距離を取っているため、相手の表面的な良い面が見えることもあります。
これが、距離が近づくにつれて本質的な嫌な部分が見えてくることもありますよね。
これも、あなたが感じる「良い人に見えたが、やっぱり嫌だ」というループの原因にもなりますし「騙されていた」という感情の正体もこれです。
逆に、悪い人に見えている状態から、本質である良い面を見続ける事で、印象が変わる事もあるでしょう。
この場合は、初頭効果と直感が間違っていたと言えます。
良い人なの?悪い人なの?のループが疲れる理由 エビデンスレベル2
一言で表すと、他人に振り回されている感じがしませんか?
「嫌だなぁ・・」と思って対面したら良い姿を見たり、ポジティブな言葉をかけられて過剰にうれしくなったり。
かと思った翌日には嫌味を言われてズドンと傷ついたり。
映画版ジャイアンの法則と言われてピンとくるでしょうか。
特定の状況ではめちゃめちゃ心強いですし優しいですが、普段はのび太くんを殴ったり物を奪ったりしてますよね。
見る側の私たちにとっては何とも思いませんが、のび太くんからしたらたまったもんじゃないかもしれません。
実際のあなたの生活に置き換えるとどうでしょうか。たまったもんじゃないですよね?
実はこれこそが、対人における疲労感の原因でもあり、過度な緊張感の元にもなっています。
認知のゆがみ
いやーーーな人が、いきなり良い面を見せてくると過剰に嬉しい。逆もしかり。
これ、めちゃめちゃストレスかかってます。
認知の歪み
アーロン・ベック
「物事を正しく認識できず、偏った考え方をしてしまう心理的傾向」のこと。
人は日常生活の中で、無意識のうちに非合理的な思考パターンに陥ることがありますが、これが「認知のゆがみ」です。
この概念は認知行動療法において重要視されています。
デビッド・バーンズ
今回の話では、特定の状況や相手に対し、過度にネガティブまたはポジティブに解釈する現象の事を認知の歪みとして説明できます。
対人関係においては、相手の行動や言動を良い・悪い方向に捉えがちですが、後で冷静に振り返ると「あれ、思い過ごしかな?」と思うことがありますよね。
これは、物事を正しく認識できず、偏った考え方が起きていたから起こったと考える事が出来ます。
認知行動療法では、こうした思考の偏りが不安やストレスを引き起こすとされています。
認知の歪みは、細かく分けると何種類かの心理が隠れている事がわかっています。
その中でも、過度に良い悪いを判断する事がある心理は、認知の歪みの中でも「全か無かの思考」や「過度の一般化」といった内容が関係してきます。
それぞれ解説します。
全か無かの思考(白黒思考)
「物事を極端に捉えてしまう思考」の事。
今回の話で言えば
「この人は、不快になったから悪い人だ。良いことをしたから本当は良い人なんだ」
と決定してしまいたくなる心理を指します。
過度の一般化
「たった一度の出来事を根拠にして、すべてを決めつける思考」の事。
白黒思考と似ていますが、一度の出来事で未来すら決めつけてしまい、他の可能性が見えなくなっている状況を指します。
ちょっとの失敗や、少しうまくいかない事が続いたりすると、その経験を全ての物事にあてはめてしまう考え方の事を指します。
例えの悪い例ですが、一人の男性の嫌な部分を見ると男性全体を嫌な風に見たり、金髪がどうとか、太っているとどうとか、聞いたことがあります。
あのような、根拠のないレッテルのようなものを指します。プリウスミサイルという発言も該当します。
根拠のないレッテルをあてられて嫌な思いをする人がいるのはもちろんですが、そのレッテルを貼ってる側も実はストレスを抱えます。

正直、私はこの白黒思考や過度の一般化が抜け切れていない部分があり、苦しんでいる事が今でもたまにあります。
自分が傷つかないための言い聞かせとして、この心理が湧き上がってくるイメージです。
よくないことはわかりますが、それを抱いてしまう人の気持ちもよーくわかります・・・
過度の一般化に対する私の考え方
何かがあったからといって、全体に対し「どうせこうだから信用しない」と決めつけるのは視野が狭い事にも繋がります。ましてやそれを他者にぶつけるのも違います。
ただし、あれもこれも正しく理解しようとするのは大変ですし、それが危険な事があるのも事実です。
例えば怖い例にはなってしまいますが「夜中に一人で出歩くことは犯罪に合うリスクが高く危険」というのは、ある意味では認知の歪みであり、細かく見ていくと「夜中に出歩いている人たちが危険」と一括りにしており「夜中に出歩く人間を信用できない」と決定している事でしょう。
ですが果たしてこれを「全員がそうじゃない」「良い人もいる」「仕事で疲れていて夜中しか遊べない善良な人もきっといる」と改め「夜中を信用しないというのは言い過ぎで、公平に考えるべき」というのは合理的でしょうか?危険に繋がる解釈ではないでしょうか?
私はこのような疑問があるため、過度の一般化を、思考がパンクしないためや、身を守るための正当化として保持しておくのは生存戦略ではないかと考えています。
認知的不協和
あれ?もう1回出てきましたね。実は心身の疲れにも影響してくるんです。
簡単に再度解説します。
認知的不協和とは、自分の信念や考え方と実際の経験が食い違うことで感じる心理的不快感を、別の考え方を用いる事で消そうとする心理のこと。
嫌だと思っていた人が突然良い面を見せたりすると、自分の中で「この人は嫌い」という感情と「実際は良い人かもしれない」という事実が矛盾し、不協和を感じます。
この不快感を減らすために、考え方を無理やり変えることがあり、それの事を指します。
ストレス反応と生理的影響
レオン・フェスティンガー
認知的不協和に対するストレス反応は、身体的な影響ももたらすことが分かっています。
矛盾を解消しようとする心の葛藤が長時間続くと、コルチゾールなどの分泌が増加し、心身に負担をかける可能性があります。
一部の研究では、認知的不協和を解消するための努力がストレスレベルを高めると示唆されています。
例えば、ある研究では、認知的不協和により参加者の心拍数や血圧が上昇することが観察されました。
これにより、ストレスが身体的にも現れることが示唆されています。
自己批判と自責感
人は、自分の判断に自信がないと「自分が悪かったかも」と感じる事が多いです。そうじゃない人もいます
特に自分の思い込みや初期の判断に対して、後から「考えすぎだったかもしれない」と自責してしまう場合もあります。
さらには、自己肯定感が低い人ほど、このような過剰な自己批判に陥りやすいことがわかっています。
これが長期化すると、ストレスやうつ状態にもつながる可能性がある事までわかっています。
心当たりございませんでしょうか。
まとめ
さて、対人で抱える善か悪かで振り回される疲れについて解説しました。
真面目なあなただからこそ、しっかりとした科学的根拠があるにも関わらず、自己批判と自責を繰り返し「あの人のいい部分も見つけなきゃ」という試行錯誤と「あれ?良い人じゃん」という側面の発見を繰り返した結果「受け入れられない自分が悪い」と自己否定に陥ってる可能性は十分にあります。
ですが、決してあなたは悪くありません。
あなたに合わないという当たり前の現象が起きているだけなんです。
それを無理に埋めようとしたら当然疲れ切ってしまいます。
ほとんどの場合
「あの人は嫌な人」という直感がただの思い込みで「良い面もしっかりある普通の良い人」というのが事実なんだ。
と思っているかもしれません。
ですがあなたにとっては「あの人は嫌な人」という直感こそが事実で「あの人にも良い面がある普通の人」という解釈こそが思い込みである可能性が高い事をお伝えしました。もちろんその解釈が外れている事もあります。
その根拠は、直感と初頭効果と類似性の法則・内集団バイアスで説明がつきます。
後編では、どうやったらこのループを抜け出せるのか。と、こういう人はこの悩みに深くハマりやすいという特徴をお伝えします。
それでは今回はここまでになります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
参考文献
『自己肯定感を高める心理学』石井光太
『認知行動療法の基礎』堀田善衛
『心理学的アプローチによる人間関係の改善』中村秀一
『感情の心理学』ポール・エクマン