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さて、このテーマは長編であるため、情報過多に感じたかもしれません。
前回の記事では、完璧主義は悪いものではなく、社会での調和に少しずつ慣らしていけば、武器にもなり得るという考え方を書きました。
「社会のハードルが高い」と感じるのは、実は、完璧主義が影響したことによる主観になってしまっているとも述べました。
初めのうちは、完璧を求める必要はなくほどほどでいいのです。
その理由も、きちんと納得できるよう、例を紹介しました。
そして今回は
「ほどほどって例えば?」
「きちんとやりきらなくていいの?」
「全力でやるからなんとか面白いのに、手を抜くんじゃつまらなくない?」
という疑問を解決して、完璧主義の向き合い方の記事をしめます。
100%ではなく70%に落とす エビデンスレベル2
ほどほどというのは、これぐらいです。
- グランドを10週走るのが精いっぱいだとしたら7週にします。
- 腹筋を10回やって疲れるなら7回にします。
これがほどほどです。
やってないかと言われればやってますよね?
全力かと言われれば、そうではないですよね?
これは、持続可能な活動にするために効果的な考え方になります。
なので「100%の力を求めるのは当たり前」という考え方を一度手放してみてください。
実は、非適応完璧主義者ほど成功を遠ざけることが多い事がわかっています。
完璧主義が起こす結果に関するデータ
①Stoeber & Otto(2006)
①適応型完璧主義は高い成果や満足感と関連があるが、非適応型完璧主義は不安、うつ、燃え尽き症候群と関連していることが示されました。
非適応型完璧主義が強いと心理的負担が増し、成功の妨げになる可能性があるとしています。
②完璧主義には
「自分に対する完璧主義」
「他者からの完璧主義の要求」
「他者への完璧主義の要求」
の3つの側面がある。
特に 「自己批判的完璧主義(自分に厳しく、失敗を許せない)」 は、ストレスの増大とパフォーマンスの低下に関与していると報告されました。
③研究では「適応型」と「非適応型」の違いを示し、非適応型の人は目標を達成する事よりも失敗への恐怖に縛られやすいと指摘している。
②Flett & Hewitt(2002)
③Hamachek(1978)
当たり前ですが、100%を目指すことは非常に高いハードルであり、達成が難しいです。
にも関わらず「周りからはこれを求められているんだ・・!」と誤解すれば、失敗を恐れてしまい、結局行動に移せないことが多くなってしまいます。
そこで「70%で十分」という気持ちを持つことで、少しずつでも行動が取れるようになり、その積み重ねが最終的に大きな成果に繋がります。
最小努力の法則
ジョージ・キンズリー・ジップ( 1949)
人は本能的にエネルギーを節約しようとする性質を持ち、最小限の努力で最大の成果を出そうとする。
人間の持つこの性質を活かし、無理なくできる範囲で継続することが、長期的な成果に繋がるとされています。
自分にとっての100点から減点して70点に設定する
さて、ではあなたにとっての70%って何か?を探してみましょう。
残念ですが私には、あなたの答えの提示ができません。
しかし、あなたなら知っているはずです。その見つけ方をお伝えします。
自分にとって「完璧」と感じる状態をまずはイメージします。
それが100点の状態とします。
それを元に「70%の達成」を目指した場合、何を手放せるかを具体的に挙げてみます。
- たとえば、仕事のプレゼンであれば、何の隙もない完璧な資料を作ることが100点ならば
「大事なポイントが抑えられていればOK」
とすれば、70点ぐらいまで落とせるのではないでしょうか。- 接客ならば
「いつもありがとうございますお客様。いつでもお待ちしております。またお越しくださいませ。」
このような挨拶が100点ならば
「ありがとうございます、またお越しくださいませ。」
これでも70点は取れませんか?このように、少し余裕を持つことを意識します。
これを一定期間続けて、自分がどれだけ成果を上げられるか様子を見てみると、70%でも十分に問題なくやり遂げられることが実感できるはずです。
ポイントは
何ならあなたにとって100点で、そこからどこを手を抜けば70点になる代わりに無理なく持続可能にできるか?
を探し、実行する期間を設けて様子見してみることです。
きちんとやる必要 エビデンスレベル2
「きちんとやりなさい」
昔から言われてきませんでしたか?
しかし、それは伝えた人の自己満足だったり、コントロールしたさで教えた可能性も否めません。
なぜなら実際の社会ではバレないように手を抜いている人が大半だからです。
その実態も、お伝えしましたね。
多くの人が仕事や日常の中で適度に手を抜いてるのは事実です。
完璧を目指すと燃え尽きてしまうため、適度な手抜きはむしろ賢い選択です。
周囲も、すべてが完璧であることを求めているわけではないんですよ。
また、100%ではなく70%でもきちんとやっている範囲ですし、不完全であることの美しさがあるのも事実です。
だからこそ
「次こうしよう、こうあると美しいよね」
という理想のビジョンについて語れる楽しさがあり、70%の力で理想のビジョンを作るには?という新しい目標を主体的に目指すのも素敵です。
無理のない持続可能な活動の仕方で理想のビジョンが実現でき、維持できるなら、その方法を見つけたいじゃないですか。
そして何より、100%できちんとやる事を、本当に周り全てが求めているのか把握するのも必要です。

私がもし、100%の力で毎回きっちりやってる素晴らしい人がいるとしたら「無理しないでください」と声をかけると思います。
私が上司という立場ならその人の仕事を減らしますし休憩を指示します。
全員が100%を出し続けられるならあらゆる業績が出て当たり前です。
そしてそれならそれで相応の報酬が出ないとおかしいです。
持続が難しいほどのパフォーマンスを個人に求める方が、あらゆる問題が発生するのは様々な研究を知れば明白なんです。
「きちんとやりなさい」は、いずれあなたを押しつぶす狂言です。
「ほどほどにやりなさい」は、あなたを思いやり、様々な視点で考えてのアドバイスです。
「きちんとやりなさい」という指示は、過剰な完璧主義を促し、燃え尽き症候群を引き起こす可能性が高いとされています。
(WHO, 2019)
世界保健機関(WHO)も、燃え尽き症候群を「慢性的な職業的ストレスによる精神的・肉体的消耗」と定義しており、長期的に高いパフォーマンスを求め続けることは、むしろ逆効果であることが分かっています。
一方で、「ほどほどにやりなさい」というアドバイスは、セルフ・コンパッションの概念と一致しており、適度な自己受容がストレス耐性を高め、パフォーマンスを持続可能にするとする研究結果もあります。
また、心理学者ロイ・バウマイスターの「意思決定疲労」の研究によると、リソースを適切に温存しながら取り組むことが、長期的な成功につながると示されています。
つまり、完璧を求める「きちんとやりなさい」は、長期的には心身をすり減らし、かえってパフォーマンスを低下させるリスクを伴います。
一方で、「ほどほどにやりなさい」というアドバイスは、持続可能な成長を可能にする戦略的アプローチなのです。
(Neff, 2003)
(Baumeister et al., 1998)
全力でやる面白さの欠如 エビデンスレベル2
「確かに疲れ切ってしまったけど、私にとっては100%でやるから緊張感があって楽しい面もあった。それを手を抜くなんてしたら何も楽しくなさそう」
お気持ちはとてもわかります。それも一部事実です。
私も、あらゆる感情やデータに従って手を抜くようにした瞬間、業務で楽しいと思える頻度が減り、仕事の質が下がったと感じる時期もありました。
ただ、それでも会社はまわっていました。そこで気付きを得ました。

やりたくない事をやっているから70%の発揮では楽しさがなく、仕事と割り切って出勤する日々になってしまう。
やりたい事がやれているなら70%の働きでも成果や楽しさが得られるくらいの能力は発揮できるし、やりたい事なら自然と手を抜くなんていう発想がない
つまり、70%の発揮では成果が出ないような職種を自分で選んでいませんか?という事です。
70%では成果が出ない事を能力不足などとは絶対に思わないでください。
環境が適していないと考えるべきです。
やりたくない事によるパフォーマンス
(Deci & Ryan, 2000)
心理学者の自己決定理論によれば、人は自主性、有能感、関係性の3要素が満たされると、強い内発的動機を持ち、高いパフォーマンスを発揮しやすくなります。
しかし、やりたくないこと(外発的動機)による仕事では、こうした要素が欠けがちになり、意欲の低下や燃え尽きにつながるリスクが高くなります。
そのため、70%の力では楽しさを感じにくくなるのです。
(Deci et al., 1999)
環境のせいではなく、自分がただ選択を間違えてしまっただけかもしれません。
今を考え直す良い機会と解釈するのがおすすめです。
全力でやらないと面白さがないような環境であれば、持続不可能ともいえます。
これは環境の変化を考えるきっかけではないでしょうか。
ピーターの法則
(Peter & Hull, 1969)
人は「自分の能力の限界まで昇進する」とされ、適性を超えた仕事では成果が出にくくなることが知られています。
また、心理学者アンダース・エリクソンの研究では「10,000時間の法則」が示すように、適切な環境と学習方法が整っていなければ、高いパフォーマンスを発揮することは難しいとされています。
以上の事から、70%の力で結果が出ない職種にいるのなら、それは「自分が能力不足」なのではなく「環境が適していない」と考えるべきなのです。
そして大切なのは「環境が悪い」と嘆くのではなく「自分に合う環境を選ぶ視点を持つ」ことです。
人間は環境に大きく影響を受ける生き物であり、意思決定の50%以上は環境によって左右されるとする研究もあります。
つまり、自分が活躍できる環境を選ぶことが、能力を伸ばし、成功するための鍵なのです。
(Ericsson et al., 1993)
(Thaler & Sunstein, 2008)
エフォート・リワード・バランス理論
(Siegrist, 1996)
心理学者ヨハネス・ジーグリストは「努力と報酬のバランスが取れない仕事は、ストレスやバーンアウトの原因になる」と指摘しています。
つまり、常に全力を出さないと成果が出ない仕事は、持続不可能であり、長期的に見るとパフォーマンスを下げる可能性が高いのです。
代わりに得ている余裕の使い方 エビデンスレベル2
70%で取り組んでいる分、余裕が生まれるはずなので、その余裕を使って十分な休息を取り、回復した体で新しい道を探すのも一つの方法です。
休息を取ることで冷静に物事を見つめ直し、新しい知識やスキルを手に入れる余裕が生まれますよね?
療養期間は、ただの休みではなく、未来に向けて自分をリフレッシュさせる大切な時間でもあります。
70%の発揮では思うように成果が出ず、ストレスを抱えている場合はなおさら今の環境を考え直すサインでもあります。
70%の力で取り組むことで余裕が生まれますが、その余裕を「回復」に使うことは極めて重要です。
(Ericsson et al., 1993)
心理学者アンダース・エリクソンの研究では「世界的なプロフェッショナルは1日4〜5時間の高集中作業を行い、意図的に休息を取ることで高い成果を維持している」ことが明らかになっています。
また、脳科学の研究でも、人間の集中力には限界があり、適度な休息を取らないと認知機能が低下することが分かっています。
つまり「余裕があるなら休息を取るべき」というのは、科学的に見ても生産性を上げる正しい戦略です。
(Kahneman, 2011)
休息を取ることで、単に疲れを癒すだけでなく、脳の情報処理能力が向上し、新しい視点を持ちやすくなることが分かっています。
(Raichle et al., 2001)
① 「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」と創造性の向上
脳科学の研究によると、休息中やぼーっとしているときに活性化するDMNが、アイデア創出や自己内省に重要な役割を果たすことが分かっています。
つまり、適切に休息を取ることで、これまで見えていなかった新しい道を発見しやすくなるのです。
② 「睡眠」と「学習・記憶」の関係
睡眠研究では、新しい知識やスキルの定着には「ノンレム睡眠(深い眠り)」が不可欠であることが分かっています。
70%の力で取り組み、しっかりと休息を取ることで、脳が情報を整理し、新しい学習の準備が整うのです。
(Diekelmann & Born, 2010)
完璧主義はいつ使うの?結局無くした方がいいの? エビデンスレベル2
結論からお伝えします。
使いこなしたいと思える環境が想像できないなら無くした方がいいです。
もっとわかりやすくお伝えします。
- こんな仕事をさせてくれるなら完璧主義を発揮して成果だしまくりたい!
- この子は一生をかけてでも大事にしたいから完璧主義を発揮してでも育てたい!
- 完璧主義を発揮すれば素晴らしい作品になって人に価値を与えられる!
このように明確な願望があるのなら、完璧主義はそれこそ武器になります。
しかし明確な目標すらもないのなら、完璧主義はあなたが進む上で妨げになる場合があります。
その場合は、悲しい事ではありますが「完璧を求めるのは自分だけで、周りはそこまで求めていないかもしれない」という視点に気付いてしまい、人はそれぞれ異なる価値観を持っている事を認識せざるを得ません。
自分が「完璧にしなければならない」と感じていることでも、実際にはそれほど期待されていないことも多いんだという事実を受け入れて手放す必要があるかもしれません。
結果的に、そうすると自分自身を大切にできてリラックスした日々を送れるようになり、世の中に出る一歩を軽い気持ちで踏み出す事ができます。
ですが、その上で明確な願望ができた場合は再び完璧主義を拾う事も悪い事ではありません。
完璧主義が有効であるかどうかは、目標の明確さと環境の適切性に大きく依存します。
(Frost et al., 1990)
明確な目標があり、完璧を追求することで成果を生み出せる場面では、完璧主義を武器として活かすことができます。
しかし、目標が不明確であったり、他者が求める基準とズレている場合、過度な完璧主義は不安やストレスを引き起こし、生産性を低下させる原因となり得ます。
この視点を踏まえた上で、完璧主義を使いこなすかどうかは、状況に応じて判断することが大切です。
そして、自分自身のメンタルを守るためにも、完璧を求めすぎないことも重要です。
(Shafran et al., 2002)
(Locke & Latham, 2002)
まとめ
いかがでしたか?
情報の多さで少し億劫さを感じさせてしまったかもしれません。

今回の完璧主義ですが、私は仕事をする上での完璧主義は手放しました。
その代わりに、こうして皆様にお伝えする活動に完璧主義を使う事に決めました。
なので、しっかり見直したうえで、役に立つような記事をお届けしているのです・・・・が!
完璧主義が働いている以上、なかなかの時間をかけて書き上げています。
既に自覚しているのですが、ここでも完璧主義を手放して70%ぐらいのパフォーマンスで情報量や文字の多さを削ってお届けする方が、結果的に皆さんの読みやすさに貢献できると思っています。
しかも、その分みじかい時間でいくつもお届けするわけですから、試行回数の問題で記事の質もおそらく上がっていくでしょう。
別の記事でお届けしますが
「自分は成長しない、できない、これからもダメすぎるだろう・・」
と自己否定する人にこの一言を送ります。
「今より確実に成長する自分や可能性という要因を無視して未来を想像している」
多分、私じゃなくて誰かの言葉です。私は一般人なので多分そう。
完璧主義の使いどころは私もまだまだ課題です。
このように、70%を繰り返す事でスキルが上がり、繰り返しがあるからこそ70%の労力でも100%の質の物を作れる確率が高まるんです。
今100%を求めて行動して100%目指すことに億劫になるより、70%の行動で70%の成果を挙げる事を繰り返して鍛錬する。どっちがいいですか?
さて、今回はここまでになります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
参考文献
『完璧主義の心理学』 エリザベス・ロンバルド
『レジリエンスの鍛え方』 久世浩司
『がんばらない練習』 石原加受子
『「いい人」をやめればうまくいく! 完璧主義を超えて幸せになる方法』 ビクトリア・アーロン