突然ですが質問です。
「今日なにしたっけ?何かしたっけ?考え事だけして1日終わったような・・・」
「考えただけで答えも出なかったし、虚しい日になったなぁ・・」
こんな経験はないでしょうか。
実はこれ、あなたが一生懸命に向き合おうとしている証拠です。
と言われてもピンと来ないかもしれません。
今回は、一生懸命向き合っているからこそモヤモヤし続けてしまう根拠をお伝えし、考え込む性格のあなたを肯定してみせます。
考えるだけで疲れ、その日一日何もしたくなくなるのは普通なんですよ。
なぜもやもやするだけで疲れてしまうのか? エビデンスレベル2
そもそも人は、悩みや不安を抱えると、脳は過剰に働いてしまいます。
それが続くほど疲れるのは、言われてみれば当たり前だと感じませんか?
『ストレス脳』(アンデシュ・ハンセン)
問題を解決するために頭をフル回転させますが、解決策がすぐに見つからないと思考がどんどんハマってしまい、結果的に疲れ果ててしまいます。
心理学的にはこれを認知的負荷と呼びます。
考え込むと、頭の中が疲れたり熱を感じたりする事がありますよね。あれの事です。
それだけにとどまらず、ここにルミネーションという概念が関わってきます。
ルミネーションとは
ネガティブな悩みを繰り返し考えてしまう事とその結果起きてしまう状態を言います。
1回考え込んだだけでは落ち着かず、明日も明後日も同じことを考え込むことありませんか?
そのうえ疲れてしまう現象がこれにあたります。
頭を使いすぎて疲れると体全体が重くなったり、疲労感を抱くことはありませんか?
「何もせず考えてただけなのに体がだるい。調子悪いのかな?もしかして歳のせい?」
これ、勘違いです。
ルミネーションを大まかに説明して次に進みましょう
ルミネーション(Rumination)
過去の出来事やネガティブな感情・考えに繰り返し注意を向けることを指します。
Susan Nolen-Hoeksema(1991)
特に、ストレスや悲しみ、不安に対する執着的な考えが続く状態で、結果として問題解決ができずにさらにストレスが増す傾向があります。
ルミネーションの特徴
・反復的かつ自動的なネガティブ思考のサイクル
・自己批判や後悔、何度も同じ問題について考え続ける
・解決策を見つけられないため、ストレスが増幅する
反芻思考とは似ていますが違います。
この結果、脳がずっとフル回転することが継続されて疲れ果ててしまうんですね。
先述した認知的負荷です。
ネガティブ思考がグルグル回ってストレスも増えて疲れ果てる。
最悪ですが本当によくある話ですよね。
この状態に陥った自分を自己否定するのは自分にとどめを刺そうとしているようなものです。
「疲れて当たり前なんだ」という事がわかったら今日から自分に優しくしましょう。
また、あなたの周りにもこんな方がいらっしゃれば「一生懸命考えているから疲れたんだよ」と、考えるだけで何もできなかった人を責めない気持ちをもってあげてくださいね。
ルミネーションの体験談
ではどんなものがルミネーションにあたるのか?
私の体験談を開示します。もしかしたら共感くださる方もいるかもしれませんね。
- 理不尽な目にあった。
- 法的にグレーな事をされた。
- 自分の発言で相手の表情が険しくなった気がする。
- 挨拶がそっけなかった気がする。
- 皆の反応がなんとなく違和感。
これらの事が起きた時
- あの時どうすれば良かったのか?そもそも自分に問題があったのか?
- 相手はこれ法律に触れてるんじゃないのか?
- 調子に乗りすぎてたかな?
- そもそもから辿って、あの時あれはだって・・・
- いやでも確かに相手はこうしてたし・・・
このような思考のループがルミネーションにあたります。
「そんなの気にしなくていいじゃん!」
これができたら苦労はしませんよね。
他者からみて些細な事でも本人にとっては大きな問題であることが多く、ここまでループする時点で心にダメージを受けていることは明白です。
さて、ここをしっかり考えて答えを見つけたいがために、ずっとモヤモヤし、考え続け、1日が経ってしまいがちです。
それが今回のテーマでしたね。
しかしどうでしょうか。
それだけの深い思考をする事が、問題に向き合っているとはいえませんか?
問題解決能力につなげるために場数を踏んでいると解釈ができるのではないでしょうか。思考停止で自分の考えが正しいと思い込み、問題を軽く流すのとどちらがいいですか?
もちろん、あらゆる学習を経た人にとっては「気にしなくていい」というレベルに達していることもあります。
無下にせず尊敬できる相手なら話を聞くこともポイントです。
そして当たり前ですが、考え込んだ結果でた結論が失敗でも問題ありません。
失敗という結果を出せた時点で歩んだ証であり成長で、どうなったら失敗するのかを学べたという点で長期的に見て成功です。特に現代人は私も含め、失敗を拒否拒絶しすぎです。
成長マインドセット
Dweck, C. S. (2006). Mindset: The New Psychology of Success.
スタンフォード大学の心理学者は、成長マインドセットの概念を提唱しています。
彼女の研究によると「失敗を学習の機会と捉え、努力を続ける人(成長マインドセット)」は、成功する確率が高いことが示されています。
反対に「能力は固定されており、失敗を自分の限界の証拠と考える人(固定マインドセット)」は、成長の機会を逃しやすいです。
失敗から学ぶプロセス
Edmondson, A. C. (1999). Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383.
ハーバード・ビジネススクールの組織における「心理的安全性」の研究では「失敗を受け入れ、学びに変える環境がある組織は、革新性が高く、成長しやすい」と示されています。
失敗を恐れて行動しない場合、長期的に見て成功のチャンスを失うということです。
失敗は脳を成長させる
Robert A. Bjork(ロバート・A・ビョーク)
脳科学的にも「失敗を経験すること」は、脳の可塑性を促進すると言われています。
失敗によって「どこが間違っていたのか」を考え、試行錯誤を繰り返すことで、脳の神経回路が強化され、より高度なスキルや思考力が身につくのです。
これは、学習やスポーツ、創造的活動など、さまざまな分野で確認されています。
「望ましい困難(Desirable Difficulties)」の概念(学習効果を高めるには適度な困難が必要)
Michael Merzenich(マイケル・メルゼニッチ)
神経可塑性の研究
考え続けるあなたは一生懸命 エビデンスレベル2
重要なのは考え続けること自体が、問題解決に向き合っている証拠だと自覚することです。
脳は何とかして状況を良くするためにグルグル働いているんですよ。
答えが出るかどうかですぐに答えが出るほど簡単な事ならそもそもハマりません。
きちんと考えこめる自分に対し自己否定する事は「すぐに答えを出しなさい」「疲れるのはおかしい」と言っているのと同義で、もはや無茶を押し付けるパワハラです。
「自分は一生懸命頑張っているんだ」と自分を理解してあげてください。
問題解決のプロセスと熟考(Deliberation)
ノーベル賞受賞者 ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)(2011)
ダニエル・カーネマンは「システム1(直感)」と「システム2(熟考)」 という2種類の思考プロセスを提唱しました。
システム1:直感的で素早い判断を下す(無意識的・反射的思考)
システム2:論理的・意識的にじっくり考える(熟考・問題解決)
問題解決には、システム2(熟考)が不可欠です。
彼の研究では「システム2を使って考え続けることが、より合理的で優れた意思決定を生む」ことが示されています。
Thinking, Fast and Slow.
マインドワンダリングと創造的問題解決
Baird, B., Smallwood, J., Mrazek, M. D., Kam, J. W., Franklin, M. S., & Schooler, J. W. (2012).
心理学者ベンジャミン・バードの研究では「意識的に考え続けること(熟考)」と「無意識的な思考(マインドワンダリング)」の両方が、創造的な問題解決に寄与することが示されています。
・「集中して考え続ける」ことで、論理的な問題解決力が高まる
・「ぼんやりと考える(マインドワンダリング)」ことで、突発的なひらめき(洞察・インスピレーション)が得られる
つまり、問題に対して考え続けること自体が解決の第一歩であり、意識的・無意識的な思考のプロセスを通じて解決策が生まれるということです。
Inspired by Distraction: Mind Wandering Facilitates Creative Incubation.
Psychological Science, 23(10), 1117–1122.
メタ認知と問題解決
心理学者ジョン・フラベルは「メタ認知(自分の思考を客観視し、調整する能力)」が問題解決に不可欠であることを示しました。
メタ認知の高い人は、考え続けることで「何が問題なのか」を正しく認識し、解決策を見出す能力が高いことが分かっています。
Flavell, J. H. (1979).
Metacognition and cognitive monitoring: A new area of cognitive–developmental inquiry.
American Psychologist, 34(10), 906–911.
思考を整理するために エビデンスレベル2
さて、自分を責める必要がないとわかっても、もやもやするのは嫌ですよね?
そこで、もやもやしている状態を軽くしたり、抱えている問題と向き合いやすくする方法をお伝えしていきます。
ジャーナリング(書き出し)
悩んでいる事や考えている事を紙に書き出すことで、頭の中を整理し、脳の負荷の軽減が期待できます。
書くことで自分の思考を客観的に見ることができ、疲れを軽減できる効果もあります。
- どんな事があったのか→(知らない子供が踊っていた
- どんな感情を抱いているのか→(不気味だった
- どの部分が気になるのか→(あんな場所で一人で踊っていたから
- それはなぜか→(自分も周りもそんな経験ないから
- どうなったら気にしないのか→(子供が踊らなければいい
- 自分が無理なくできることは何か→(もうあの場所には近づかない
- 自分ではどうしようもない点は何か→(子供を止めること
これだけでいいです。
これ全部を書かなくてもいいです。
書き始めたら止まらなくなっていくこともあるので、自分がどんな考えのもとでモヤモヤしているのか。が見えてきて自己理解に繋がります。
忘れようとしない
結論、忘れようとしてもしばらくは無理です。
知っている方もいるかもしれません。
頭の中に「白熊」を10秒ほどイメージしてください。
次に、その白熊を頭の中から消し去ってください。
できないはずです。
これは、心理学者のウェグナーさんが行った実験で「白熊の実験」と調べると出てきます。
忘れようとするほど忘れられず、むしろ定着してしまうことを意味します。
解決へ近づくには、頭の中に悩みがあることを許します。
それを整頓して「自分は悩みを1つ、2つ、複数持っている」と、自覚している状態に運びます。
その中のうち、できることから少しだけやってみる。これだけでいいんです。
瞑想
呼吸に意識を集中させ、ルミネーションを止めることができます。
瞑想は呼吸に集中するだけで効果を得られます。
ループ思考に陥っている状態のところ、集中する点を思考から呼吸に変えるので離れることができるんです。
また、瞑想をすることで「あ、自分は今ループしてたな・・」と目を覚ますことができ、客観視をすることもできて、落ち着きを取り戻せます。
こうすることで、ループした状態を消そうとするのではなく「そっかそっか、解決に今自分は必死なんだな」と受け止めることも可能です。
悩むことは悪くない事と知る
悩みやすい性格や、常に物事を考えすぎてしまう人ほど、自分を責めてしまうことがありますが、実は人生に一生懸命な証拠です。ゆえに、鬱は武器です。
「ほんとはこうしたい、こうあるはずだ」という希望がはっきりしているから発症するんです。
自分が幸せに生きる上で気になるから考え、悩み、そのループにはまるだけです。
人生をよりよくしようと、嫌な人生を改善しようと、心は思っているから考えるんです。
嫌なことから逃げたいとか、嫌だから改善したい、は生存本能であり生存欲求でもあり、問題解決能力を鍛えているわけでもあります。
嫌だから駄々こねて問題を放り出して何かが解決してくれるのを待つのは成熟しているとは言い難いですが、嫌だからこそ考えて答えを必死に探して行動につなげようとしているのは成熟している証拠です。
ポジティブな側面がある事を忘れないでください。
うつは「適応のための戦略」である
Andrews, P. W., & Thomson, J. A. (2009).
適応仮説
進化心理学の観点から「うつは生き残るための適応戦略である」とする研究があります。
うつになると「反すう」といって、同じことを繰り返し考える状態になりますが、これは脳が「どうすれば問題を解決できるか」を深く考えるための働きです。
つまり、うつは 「嫌なことから逃げる」「嫌な事に悲しみ続ける」「嫌な事から背きたくなる」だけではなく「現状をより良くするために、脳が必死に問題解決を試みる状態」だというのがこの研究の主張です。
The bright side of being blue: Depression as an adaptation for analyzing complex problems.
Psychological Review, 116(3), 620–654.
よって「うつが武器である」というのは「人生をより良くしようとする本能的な反応」であるという進化論的な視点と一致します。
「希望」があるからこそ、うつが生まれる
Frankl, V. E. (1946).
「人間は意味を持つことで生き延びることができる」
「逆に、希望が全くない状態の人は、生きる意欲を失う」
フランクルの患者の中には「生きる意味がない」と感じていた人たちが「なぜ自分は苦しんでいるのか?」と向き合うことで生きる意味を見出し、回復していった例が数多くあります。
Man’s Search for Meaning(邦訳『夜と霧』)
つまり「本当はこうありたい、こうしたい」という希望があるからこそ、うつが生まれるというのは、フランクルの理論と完全に一致します。
うつと「生存本能」
Selye, H. (1956). The Stress of Life.
人間のストレス反応には「闘争・逃走反応(Fight or Flight)」があり、これは生存本能と密接に関係しています。
うつ状態では「動けない」と感じることが多いですが、これは「戦うべきか、逃げるべきか」を判断するための一時的な省エネモードのようなものです。
この事から「うつは、嫌な人生を改善しようとする生存本能の一部」という主張がストレス学説とも一致している証明になります。
まとめ
思考のループで疲れる日々、決して無駄ではありません。
脳が頑張ってフル回転しているんですから疲れて当然です。
モヤモヤは成長材料です。成長のために疲れるのなら本望ではないでしょうか。
何もせず考えるだけの自分を責める事がいかに間違いだという事、自分が一生懸命に物事と向き合っている証拠だという事が伝わったでしょうか。
ちょっと考えてすぐ行動に繋げられるほど、人の悩みは単純ではないんです。
さて、今回はここまでになります。最後まで読んでいただきありがとうございました
参考文献
『ストレス脳』(アンデシュ・ハンセン)
『精神科医が見つけた3つの幸福』(樺沢紫苑)
『スタンフォード大学マインドフルネス教室』(スティーブン・マーフィ重松)
『反応しない練習』(草薙龍瞬)
『夜と霧』ヴィクトール・フランクル