言葉の受け取り方は当たり前ですが人それぞれです。
にも拘わらず
「え?俺そんな意図で言ってないんだけど。ハッキリ言って迷惑」
「自分に都合のいい言葉ばかり集めるとろくなことないよ」
「そんなつもりで言ってない。セクハラとか言われても風評被害」
「嫌な言葉をかけられてもポジティブに変換できるようにならなきゃねぇ?」
こんな言葉をかけられた経験はありますか?
これらに対し、どう解釈しましたか?
まず注意点としては、自分が解釈した通りに他の人に「こうやって言われた!」と言いふらすのは面倒ごとの元になる可能性があるので慎重に愚痴を言うべきですが、そもそも共感のない言葉からは距離を置いた方が良いでしょう。
例えば、人がネガティブに捉えてしまう心理を「未熟だ」などと言って否定したり、傷つく言い方にもかかわらず開き直り、むしろ荒い言葉を尊重するようなことがあっては理不尽が加速します。
状況によっては、加害者が言葉の責任を全く心得ていない場合もあり「自分は言葉遣いや言葉選びを変える気ないからあなたが対応してね」と言っているようなものです。そうまでして関わる価値があるかどうかは冷静に考えるべきです。
認知心理学と個人差 エビデンスレベル3
さて、言葉一つの受け取り方が人それぞれであると冒頭で記していましたが、それを示す科学的根拠があり、関連する研究がしっかりあります。
人々が言葉をどのように受け取るかは、心理学や社会学的な観点からも説明ができるんです。
まず、言葉の受け取り方の違いに関する研究は、認知心理学の分野で広く行われています。人々はそれぞれ異なる認知バイアスを持ち、経験、文化、感情状態によって言葉やメッセージを異なる方法で解釈します。
Baumeister et al., 2001
認知バイアス
例えば、ポジティブバイアスやネガティブバイアスといったものがあり、これが言葉の受け取り方に影響を与えます。
研究によれば、人々は自分の感情や過去の経験に基づいて、新しい情報をフィルタリングする傾向があります。
ネガティブバイアスを持つ人は、相手の言葉を批判的に受け取ることが多いとされています。
ポジティブバイアスを持つ人は、未来を楽観的に捉えがちです。
一方でフレーミング効果によれば、同じ情報であってもポジティブな表現かネガティブな表現かによって、人々の判断は変わることが示されています。
Optimism Bias, Sharot, 2011
Tversky & Kahneman (1974)
人はそれぞれ今までの経験などが異なります。
それにより、ネガティブバイアスやポジティブバイアスどちらの傾向が強いかには個人差があります。
どちらの傾向が強いからと言って優劣はありません。
また、それぞれのバイアスはどちらも兼ね備えているのが普通です。
さらに、ポジティブ・ネガティブバイアスのバランスは今後の環境によって変化します。
ネガティブバイアスの傾向がはるかに強くて日常生活で困っている場合、そのバランスを取り戻すために認知行動療法が用いられたりします。
他人が口を挟むべきではない
「適応できるなら適応しな?こっちもわざわざ言葉を考えて選んでやるの大変だからさ。お互い疲れるっしょ?」
「なるほど、よくわかった。今君はネガティブバイアスが強いな。
しかし今の環境でその傾向ではやっていけないから、認知行動療法を利用してポジティブバイアスを磨きなさい」
こういう身勝手な人のためにバランスを取り戻す必要はありません。
「身勝手?どこが?こっちも言葉選び疲れるんだよ?相手にも気を遣わせて疲れさせてることに目を向けるべき」
このような反論も無視でOKです。
相手の認知バイアスの特性や背景を考慮せず、一方的に自分の都合を優先してくるのは身勝手だと言えます。
特に、口論でありがちな「こっちも言葉を選ぶの疲れるんだから察しろよ、慣れろよ」という発言は、相手の感情や適応能力を考えず「自分が楽をしたいから相手が変われ」という一方的な主張になっている可能性が高いです。そもそもコミュニケーションにバランスが取れていないのなら公平な相談が挟まれるべきです。
また「今の環境でやっていけないからポジティブバイアスを磨きなさい」と指示するのは、相手が変わることの強制と解釈する事もでき、本人の意思を尊重していないのではないでしょうか。
認知バイアスは個人の思考パターンの事を指します。
それはこれまでの過去やその環境によって形成されたものです。
他人が「お前のバイアスを変えろ」と命令するのは、本人の心理的自由を侵害する行為になり得るでしょう。正当っぽい理由をかざしてるだけでいかにヤバい事を言っているかわかりますか?
さらに、バイアスの変化は自然なものであり強制できません
繰り返しになりますが、人の認知バイアスは、経験や環境によって変化するものです。
それを外部から強制的に変えようとするのは、本来のバイアスの形成プロセスを無視した乱暴な考え方です。
とはいえ、相手からの言葉の受け取り方がマイナスにとらえがちな状況って辛いですよね。
そんなつもりで言ってないとわかっていても、思いたくても、ネガティブに捉えようとしてしまうのには理由があります。
被害妄想の一言で終わらせないためにこんな知識を持ち帰ってください。
社会的認知理論 エビデンスレベル2
社会的認知理論とは、人間が他者の行動や意図をどう解釈するかに関する理論の事です。
他人の発言をどう理解し、反応するかは、個人の社会的な背景や過去の経験に大きく依存します。
たとえば、感受性が高い人々は、言葉を過剰に解釈する傾向があり、逆に、低感受性な人々は発言を気にしない場合が多いです。これはネガティブバイアスとは異なります。
アルバート・バンデューラによれば、過去の経験や観察によって学ばれた行動や認知のパターンが、人の解釈に影響を与えると述べています。
Bandura (1986)
また、文献では自己効力感や認知的構造がどのように人々の解釈に影響を与えるかが述べられています。
“Social Foundations of Thought and Action: A Social Cognitive Theory
自己効力感が相手から受け取る言葉の解釈に影響を与えるという点について。
あなた自身が、自分の事が好きか嫌いか、自分の能力を信じているかどうかによっても、相手からの言葉の解釈が変わる事があるという話です。
これも「そんなつもりで言ってないのに」というすれ違いの元でもあります。
そして、感受性という言葉が出てきましたが、この感受性も他者の言動をどう解釈するかに大きく影響を与えます。
感受性とストレス反応
感受性に関する研究も多く、特にストレスに対する反応の違いが言葉の受け取り方に影響を与えます。
研究では、感受性が高い人々がストレスを過剰に受け止める傾向があることが示されています。
Lazarus, R. S., & Folkman, S. (1984): “Stress, Appraisal, and Coping”
このため、他人の発言を重く受け取る場合が多いのです。
ストレスに対する個々の評価と反応の違いを示し、感受性の違いがどのようにストレス反応に影響を与えるかを説明しています。
感受性は短所ではない
「確かに感受性が高いかもしれない。けどそれによって相手に負担をかけてるよ・・」
「感受性のせいで面倒ごとを引き起こしてる。だから自分の感受性が悪いんだ」
そもそも感受性は「言動などの刺激に敏感かどうか」ではありません。
過去の経験や環境が、それぞれの「言葉の受け取り方」を形作ります。
例えば、同じ言葉をかけられて「励まし」と感じる人もいれば、「否定された」と感じる人もいます。
それは感受性が問題なのではなく、これまでの背景が違うからです。これまでの背景によって感受性が形成されるという話でしたね。
「なんでそんなふうに解釈するの?」という言葉が、まるで相手が正しくて、自分の受け取り方が間違っているかのように感じさせることがあります。
しかし、実は解釈の仕方に正解も不正解もありません。
感受性とは、単に「傷つきやすいかどうか」ではなく「その人のこれまでの人生を映し出すもの」になります。
だからこそ、自分の感じ方を否定する必要はないのです。
感受性を否定するという事は、これまでの人生の否定をする事になってしまいます。
感受性は、遺伝的要因だけでなく、これまでの経験や環境の影響を大きく受けます。
Dunn & Brown (1994)
研究では、幼少期の経験が感受性の発達に影響を与えることが示されています。
そして、感受性の個人差理論では、ある人は環境の影響を強く受けやすく、他の人は影響を受けにくいことを説明しており、感受性も一定ではなく個人差がしっかり存在する事の証明となります。
Belsky & Pluess (2009) 「Differential Susceptibility Theory」
感受性=自分のこれまでの人生
になりやすいという事です。
よって
「傷つきやすいそっちに問題があるんじゃない?そこまで気にしてほしいとか言われたらこっちまで疲れるわ」
優しくてまじめな人はこんな言葉を真に受けてしまい
「そうだよね、傷つきやすい自分が悪い。感受性が高い自分に問題がある」
と考えてしまうでしょう。
しかし、ここまで読んでいただき、知識を入れたうえで今の文面を見てどう思われたでしょうか。
一方的に自分の都合でしか言葉を選べない人間の一言のために、あなたのこれまでの人生を否定する必要は微塵もありません。
言語の多義性と文脈の重要性
「ふーん、感受性が高いから言葉に敏感って?そんなこと言われても気を付けれないよ?」
確かにここまででは、発言側も気を付けるのが難しく、気を付けきれていない人とは距離を取りましょう。で終わってしまいます。
ここで終わらせてしまえば、言葉には責任があるという主張は弱いままでしょう。
本当に、個人のバイアスとこれまでの経験、感受性だけが解釈に繋がるということになるのでしょうか。
ここでようやく、言葉の責任というのがここで大きくかかわってきます。
言葉の意味は文脈に強く依存します。
Paul Grice
同じ言葉でも、状況や受け取る側の解釈によって意味が大きく変わります。
例えば、ある人にとっては軽い冗談でも、別の人には攻撃的に受け取られることがあります。
「会話の理論」では、文脈や共通の理解に基づいて発言が解釈されることを強調しています。
言葉は必ずしも文字通りに受け取られるわけではなく、受け取る側の背景や感情が影響するため、ただ自分の思った通りに放てばいいわけではありません。
Grice (1975): “Logic and Conversation”
「いやいや、言葉の解釈が人によって違うのは十分にわかったしそもそも知ってるよ。
その上で思った通りに言葉を放てばいいわけではないって、ハードモードすぎないか?」
結論はシンプルです。ハードモードでもなんでもありません。
こんな事も考慮できない人からはいよいよ距離を取ってください。
こんな事も考慮できない人
ここで言う「こんなことも考慮できない人」とは、言語の多義性や文脈の影響を無視し、自分の主観だけで言葉を放つ人を指します。
どういうことなのか見ていきましょう。
認知の柔軟性が低い
他者の立場や感情を考慮せず言葉を発する人は、認知の柔軟性が低いと考えられます。
認知の柔軟性
Diamond, A. (2013). Executive functions. Annual Review of Psychology, 64, 135-168.
状況に応じて思考を切り替えたり、相手の視点を理解する能力です。
例えば、柔軟性が低い人は「自分の解釈が正しい」「他人の反応を気にする必要はない」と思い込む傾向があり、他者の感情や文脈を考慮しない発言をしやすいとされています。
共感能力が低い人
共感能力といわれても、多分こういうことだろうという説明までしかできない方がほとんどでしょう。私もそうです。
ですが、共感にもしっかり区分けがありました。
共感は、大きく認知的共感と感情的共感に分かれます。
①認知的共感が低い人は、相手の立場を理解するのが苦手で「なんでそんな風に受け取るの?」と他者の視点を軽視しがちです。
②感情的共感が低い人は、他者の苦痛や感情に関心を持ちにくく「自分が言いたいことを言えればいい」と考えやすくなります。
③特に、自己中心的な人ほど、相手の感情に気を配らずに発言することが研究でも示されています。
①Davis, M. H. (1983).
Measuring individual differences in empathy: Evidence for a multidimensional approach. Journal of Personality and Social Psychology, 44(1), 113-126.
②Baron-Cohen, S. (2011).
The Science of Evil: On Empathy and the Origins of Cruelty. Basic Books.
③Decety, J., & Jackson, P. L. (2004).
The functional architecture of human empathy. Behavioral and Cognitive Neuroscience Reviews, 3(2), 71-100.

感受性とか、共感能力だとかって通常の一般用語と思われがちでしたが、心理用語であり専門用語なんです。
その解釈が深くないのは仕方がない事であり専門でもなければ関心も無ければ当然です。
しかし、深く理解してないどころか間違った解釈をしたまま専門用語を用いて攻撃的に相手を詰める場面が見受けられます。そうはなりたくないですよね。
「言葉の責任」を理解しない人
「自分はそういうつもりで言ったわけじゃない」と言い、反省できない人は、私は身勝手だと考えています。
言葉の影響力を過小評価している可能性があるんです。
もちろん「自分なんかの発言は重みがないから・・」と自己効力感の低さからきていることもありますが、ある言葉が誰かに刺さるか刺さらないかの両極端で考えた時「常に刺さらない」はあり得ません。
「ごめん、そんなつもりじゃなかった」のような謝罪があるのがベストですね。
言葉には「発話の意図」と「受け取り手の解釈」のズレが生じることがありこれを理解しない人は、無神経な発言をしがちです。
Grice, P. (1975).
さらに、言葉は脳のストレス反応にも影響を与えることが研究で示されており、発言の影響を軽視する人ほど、相手に心理的ダメージを与えてしまうことがあります。
Logic and conversation. Syntax and Semantics, 3, 41-58.
Eisenberger, N. I., Lieberman, M. D., & Williams, K. D. (2003).
Does rejection hurt? An fMRI study of social exclusion. Science, 302(5643), 290-292.
こんな事も考慮できない人がどんな人かわかりましたか?
考慮と書いてあるのもわざとです。完璧な人はいませんし難易度高すぎます。
しかし、考慮ができるだけで全然違います。
完璧を求めると関わる人がいなくなってしまいますが、考慮ができる人はたくさんいます。
まとめ
人によって言動の解釈が違う理由がわかったでしょうか。
たとえば「挨拶をしても無視をされた」という現象一つとっても受け取り方は人それぞれです。
その理由は、その人がこれまでに経験してきた過去やその時の環境が影響するという話でした。
それに対し
「挨拶なんてみんなが反応すると思ったら大間違い」
「そんなあるあるを悩みとして言われてもこっちが疲れるわ」
「で?だから傷ついたって?悲劇のヒロインは見ててしんどいからやめな?」
こんな反応をする共感能力のない人間は余計にあなたを傷つけるため無視しましょうという話でした。
決して、相手の事を考えて言動を決める事は難しくないですし完璧にする必要もないですし、お互いが平等にエネルギーを使って成り立つのがコミュニケーションです。
少しでも気を配れるのならこのような一方的で乱暴な言葉は飛びません。
あなたを困らせる威圧的な人、当てはまっていませんか?
無視するべき相手を無視してますか?
あなたの心への加害者をひとりでも減らすめどがつきましたか?
今回はここまでになります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考文献
『ファスト&スロー―あなたの意思はどのように決まるか?』(ダニエル・カーネマン)
『影響力の武器[新版] なぜ、人は動かされるのか』(ロバート・B・チャルディーニ)
『「幸せ」の研究 ハーバード人生を変える授業』(タル・ベン・シャハー)
『嫌われる勇気――自己啓発の源流「アドラー」の教え』(岸見一郎、古賀史健)
『敏感すぎるあなたが7日間で自己肯定感をあげる方法』(根本裕幸)